(取材・文/小野寺亜紀 撮影/河上 良)
新歌舞伎座で上演中のプレミアムなステージ
来年デビュー40周年を迎える坂本冬美が、新歌舞伎座では約2年ぶりの単独座長公演にのぞんでいる。共演者は一路真輝、夢咲ねね、竹内將人、佐戸井けん太、相島一之、中村梅雀など実に豪華。第一部のお芝居では坂本の人柄が反映されているような、温かく軽妙な芝居で笑わせ、第二部ではゴージャスな坂本のオンステージに共演者たちも加わり、この舞台でしか味わえないようなショーを1時間25分にわたり繰り広げている。大阪でしか観られないのがもったいないと思わせる構成だ。
第一部『弁天お春騒動記』(作・齋藤雅文、演出・宮田慶子)は、明治時代を舞台にした痛快な物語。弁天長屋の貧しい民を救うため、詐欺まがいの商いもおこなっている瓦版屋のお春(坂本)。女中に化けて潜入取材した華族の館で、当主・一ノ瀬清顕(中村梅雀)の妻となった、幼なじみの夏子(一路真輝)と再会。政府の思惑に対抗するため、お春と夏子の結束していくさまが、波長の合った坂本と一路の絶妙な芝居で進んでいく。終盤の一路の名ゼリフと言い、あて書きと思える趣向が盛りだくさんで、ふたりの芯のある格好良さが詰め込まれている。
貿易商・重富役の相島、政府高官・橋口役の佐戸井は、さすが安定感のある演技。盲目の娘を美しい歌声も披露して好演する夢咲と、瓦版屋の青年を溌剌と演じる竹内の爽やかな存在感もいい。中村は男爵の役とはいえ、風来坊のような自由な空気をまといながら、“美しいものを守りたい”という本作の核を確かな説得力で伝えてくる。大団円はショーアップ的な楽しさ。
〈以下、ネタバレあり〉
第二部『坂本冬美 Premium Stage 2025 ~綺羅星たちのうた~』は、「また君に恋してる」「夜桜お七」「あばれ太鼓」、最新曲の「浪花魂」など坂本の名曲が並び、演歌歌手としての魅力を存分に堪能できる。桜吹雪にスモーク、生演奏に和太鼓と華やかで、間奏での照明の使い方など曲の呼吸まで熟知しているような演出。これぞ王道の歌謡ショー。坂本は楽しいMCでも観客の心をとらえる。
シャンデリアに赤いドレープカーテンというセットへ転換してのミュージカルコーナーは、麗しいドレス姿の一路と夢咲、スーツできめた竹内の3人による「またショウが始まる」で、一気にクラシカルで華麗な世界へ。一路はソロで『エリザベート』より「私だけに」を、宝塚退団公演のフィナーレで歌った特別バージョンで披露。壮大なメロディを歌い上げる一路の歌唱とともに、宝塚での出会いや感謝の思いを込めた普遍的な歌詞が、観客それぞれの人生に寄り添うように広がっていくのを感じ、場内は感動の拍手に包まれた。『モーツァルト!』より1曲をデュエットする竹内と夢咲の素晴らしい歌声も貴重。
さらに坂本と一路は、ザ・ピーナッツの「恋のフーガ」など数曲をデュエット。美しいコーラスはまさに姉妹のように心地よく、会場は大いに沸いた。
また、ベーシストとしての腕も確かな中村と、2年前に新歌舞伎座公演でセッションした坂本は、あの感動を再びと今回も中村に演奏を依頼。プロの技をもつ相島のハーモニカ(ブルースハープ)も加わり、「大阪で生まれた女」をジャジーな雰囲気で歌い上げる。常に相手をリスペクトする坂本ならではのステージングで、いろいろな表情、歌声で魅了する彩り豊かな舞台は、10月31日まで上演中。
公式HP https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/20251010.html