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Stage REVIEW

和希そら主演の宝塚雪組公演『双曲線上のカルテ』観劇レポート

渡辺淳一氏の医療小説『無影燈』を、イタリアに舞台を移してミュージカル化した宝塚歌劇雪組公演『双曲線上のカルテ』が、8月28日に大阪で開幕。9月3日の公演はライブ配信も行われ、5日まで上演後、東京でも9月11日~19日まで上演される。主演は、最近ますます男役としての色気が増してきた和希(かずき)そらさん。孤独な影を秘めた一流外科医を通して、真の幸せや命の意味を問いかけ、観客の涙を誘っている。
(取材・文・写真/小野寺亜紀)

『白い影』としてドラマ化もされた『無影燈』は、医師であった渡辺淳一氏ならではの生と死を見つめる視点が盛り込まれた傑作小説。2012年に早霧せいなさん主演、石田昌也さんの脚本・演出で『双曲線上のカルテ』と題して雪組で初上演された。11年ぶりの再演となった今回は、2020年の『壮麗帝』でも手腕を発揮した樫畑亜依子さんが潤色・演出を担当。スタイリッシュなセットや、滑らかに整理された展開、工夫を凝らした人物関係など新たな演出を加えて、作品の深遠なテーマを浮かび上がらせた。

和希そらさん演じるフェルナンド・デ・ロッシは、大学病院のエリートコースを捨て、ナポリ近郊の個人病院に勤める優秀な外科医。夜勤中の飲酒や女性たちとの色恋など、どこか危険な香りを漂わせる一方で、患者とは彼なりのやり方で真摯に向き合い医師として信頼されている。そんな彼はある謎を抱えていて――。

シャツを開襟し、くわえ煙草で女性たちと戯れる和希さんのフェルナンドは、男役14年目の余裕ある色気が溢れ出る。白衣に眼鏡、長めの金髪にもの悲しげな瞳。さらにひと声発せば引き込まれる低音ボイスでの台詞、ミステリアスな雰囲気と、観客の心をとらえるエッセンスが詰め込まれ、男役冥利に尽きる役だと改めて実感。宝塚では珍しいぐらいのシリアスな医療ドラマで、客席からすすり泣きが聞こえるほどの展開だが、フェルナンドの恋愛を軸にした物語は、リアルを超えた美しい世界へと昇華してゆく。

その一番の要因は、やはり和希さんの演技センスと男役としての実力。患者や死に対してときに熱くなるときもあるフェルナンドだが、新人看護婦のモニカ・アッカルドに出会い、彼女を愛することによって彼の心が救われていくさまを、ドライにもウェットにもなり過ぎない自然体の演技と、深みのある歌唱で表現。さらにコンテンポラリーダンスも交えて見せる新たな演出が、ダンスにも長けた和希さんの魅力を最大に引き出していた。

フェルナンドの孤独な闇の中で、一筋の光となるモニカを演じるのは、入団4年目の華純沙那(かすみ・さな)さん。新人公演でヒロイン経験はあるものの、外箱公演では初の大役。誰からも愛されるような可憐さと透明感を併せ持ち、モニカの芯の強さもしっかりと表出。和希さんとの並びにフィット感があり、フィナーレのデュエットダンスも美しかった。

フェルナンドと対照的な生真面目な外科医・ランベルト役は、男役スター・縣千(あがた・せん)さんが演じるはずだったが、初日から休演のため、筆者観劇日は眞ノ宮(まのみや)るいさんが代わりに演じた。最初は型破りなフェルナンドに反抗し、後半では彼を理解しサポートする同僚のランベルトを、髪の色もフェルナンドと対照的な黒髪で演じ切った眞ノ宮さん。代役とは思えない軽妙な芝居も見せて健闘した。縣さんが復帰した折には、スマートさと陽の雰囲気を持つこの役を、白衣姿でどう演じるのかも興味深い。

また、院長のセルジオ役・夏美ようさん、その妻ロザンナ役の五峰亜季さん、専科の二人が初演と同じ役で出演し、作品の明るいスパイスとなって観客の笑いをとる。同じく初演より続投の雪組組長・奏乃(そうの)はるとさんは、フェルナンドの謎を知る元大学教授のクレメンテ役で作品をしっかりと締めた。

フェルナンドと深い関係にある院長の娘・クラリーチェ役で、利発さと優しさの両面を打ち出した野々花(ののか)ひまりさん、希望と絶望の狭間を体現したチェーザレ役の桜路 薫(おうじ・かおる)さん、母として模索するアニータ役の希良々(きらら)うみさん、その息子の誠実なアントーニオ役で華のある存在感も見せた咲城(さきしろ)けいさんなど、それぞれが人生との向き合い方をさらりと提示していて心に残る。

曲調からも懐かしい雰囲気が漂うヒューマンドラマの中に、「生とは何か、幸せとは何か」という永遠のテーマが織り込まれている舞台。フィナーレでは一転、宝塚の煌びやかな世界となり、代役の眞ノ宮るいさんを中心とした群舞に続き、堂々と登場する和希さんのスターオーラで観客を惹きつけ、アップテンポの曲で踊る彼女の格好いいリズム感と笑顔で劇場全体がさらに熱くなる。華純沙那さんとのデュエットダンスでは、優雅なリフトも披露。最後に観客の拍手に応えて和希さんは、「今日の時間が少しでも皆さまの笑顔につながれば幸いです」と挨拶した。

なお、9月3日(日)16時公演は、「Rakuten TV」「U-NEXT」「Lemino」にてライブ配信される(視聴料3500円)。

宝塚歌劇雪組公演
ミュージカル・プレイ『双曲線上のカルテ』~渡辺淳一作「無影燈」より~

大阪公演/2023年8月28日(月)~9月5日(火) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
東京公演/2023年9月11日(月)~9月19日(火) 日本青年館ホール

原作:渡辺淳一
監修・脚本:石田昌也
潤色・演出:樫畑亜依子
出演:和希そら ほか

公式サイト:https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2023/soukyokusenjounokarute/index.html

 

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