(取材・文/小野寺亜紀、撮影/阿部章仁)
固定観念に縛られない絆が、いくつも描かれた感動作
『サマーウォーズ』『竜とそばかすの姫』などの細田守監督が生んだ大ヒットアニメーション映画『バケモノの子』(2015年)を、劇団四季が初ミュージカル化。脚本・歌詞に『アナと雪の女王』『アラジン』の高橋知伽江さん、演出に劇団☆新感線ほか多くの舞台に携わる青木豪さん、作曲・編曲にNHK大河ドラマ『西郷どん』等多方面で活躍の富貴晴美さんを迎えるなど、映像、装置、マジック監修など一流クリエイターが集結。劇団四季の総力を結集した大作だ。
母親を亡くし孤独を抱える9歳の少年・蓮は、東京・渋谷からバケモノたちが棲む異世界“渋天街”へ迷い込む。乱暴者だが強い信念をもつバケモノ・熊徹に出会い、「九太」と名付けられた彼は、熊徹のように強くなりたいと弟子入り。バケモノ界を束ねる次期宗師の候補でもある熊徹との共同生活を通して、親子のような絆を深めていく。
二重の盆(回転舞台)や半円状のルントスクリーンなどを使い、暗転なく二つの世界を行き来するスピーディな展開。「ハロウィン・ナイト!」での渋谷の人々の群舞など、映画にはないエンターテインメント要素もたっぷり盛り込み、両世界の対比を鮮やかに浮かび上がらせる。「大嫌いだ!大嫌いだ!」と連呼する蓮の“心の闇”も、斬新にビジュアル化されていて驚いた。
熊徹は渋天街で一二を争う最強のバケモノなのに、孤児のため独学で武術を極めたので、九太にどのように教えていいか分からない。不器用な師に、たてつく弟子、というコミカルな芝居や、アッと驚く成長を遂げるところなど、感情の交わりがとても丁寧に描かれているので自然と二人を応援したくなる。
この熊徹をはじめ、人間味溢れるバケモノたちに、懐かしい温かさを感じるところに本作独特の癒しがある。孤独な少年を一人ぼっちにせず、渋天街のみんなで成長を支えようとする姿は、現代社会が忘れかけている理想的なありかた。固定観念に縛られない絆がいくつも描かれていて、観るたびに感動ポイントが変化していきそうだ。
バケモノたちの造形はマスクやヘアメイクをうまく取り入れ、俳優と絶妙に同化させている。次期宗師の最有力候補で、その品格と強さから尊敬されている猪王山(いおうぜん)は、ライオンのようなたてがみやキバを持ったバケモノ。熊徹は赤、猪王山は黄色という色分けがされ、熊徹と猪王山の闘いが白熱すると“ビーストモード”に。『リトルマーメイド』『ロボット・イン・ザ・ガーデン』のトビー・オリエ氏がデザインした3人で操作するパペットによって、身体が一気に膨らむさまや役の熱量が伝わってくる。初日前日のプレビュー公演では、熊徹を韓盛治さん、猪王山を芝清道さんが演じていて、二人とも声や動きにさすが貫禄があった。
また蓮と、猪王山の長男・一郎彦との関係性が映画以上にクローズアップされていて、終盤に向けぐいぐいと引き込まれる。二人がシンクロして歌う「強くなる」のナンバーに始まり、緊迫感に満ちた「復讐の誓い」、そしてラストの「バケモノの子」という音楽の流れに、骨太な物語を何倍もエモーショナルに膨らませるミュージカルパワーを感じた。筆者が観た青年の蓮役・大鹿礼生さん、青年の一郎彦役・菊池俊さんは、歌はもちろんアクションの動きも素晴らしく、心に闇を宿らせたとき、信念を燃やすとき、さまざまなシーンに手に汗握る迫力があった。
物語を大きく支える熊徹の変化も、やはり楽曲によって一層ダイレクトに響いてくる。半端者の彼がいかにして“まことの強さ”にたどり着くのか。蓮と境遇が似ているところがあるからこそ、蓮の成長ともリンクし、二人の立ち姿のシンクロ具合に胸が熱くなった。
ほかにも、大阪公演のオーディションで選ばれた蓮や一郎彦、二郎丸を演じる子役たちの瑞々しい演技や、映画ではちらっとしか登場しない蓮の母が美しいソプラノの歌声で息子の背中をそっと押す、という演出も新鮮だった。
2幕のクライマックスは「そう見せるのか!」と、いい意味で予想を裏切られる。デジタルだけに頼らないマンパワー。ここは写真等でも公開されていないので、劇場でしか目撃できないものだが、ぜひとも生で体感してほしい。映画を観た人はそのスペクタクルな創意工夫に驚き、ストーリーを知らない人は、展開にも度肝を抜かれるだろう。そして観劇後、自分の「胸の中の剣」は――と、思いを馳せるはずだ。
◆出演者コメント
熊徹役:韓 盛治(はん そんち)さん ※兵庫県出身
関西初上演となるオリジナルミュージカル『バケモノの子』大阪公演に出演できることを、大変嬉しく光栄に思います。
細田守監督によるアニメーション映画を原作とし、バケモノの棲む異世界と東京・渋谷を舞台とする本作。多種多様なバケモノや迫力ある戦闘シーンを演劇ならではの表現で描いており、生の舞台の熱気を感じていただける作品です。初演である東京公演の熱量はそのまま、大阪公演に臨めたらと思っています。
私自身、久しぶりの大阪四季劇場での公演をとても楽しみにしています。劇場に足を運んでくださったお客様に作品のメッセージをお届けできるよう、精一杯務めて参ります。
劇団四季オリジナルミュージカル『バケモノの子』大阪公演
2023年12月10日(日)~2024年5月25日(土)千穐楽 大阪四季劇場
※2024年4月3日(水)~5月24日(金)公演分は12月23日(土)発売開始
千穐楽公演は「四季の会」会員を対象とした事前抽選販売のみ
SHIKI ON LINE TICKET http://489444.com
作品公式ホームページ https://www.shiki.jp/applause/bakemono/