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Stage INTERVIEW

福士誠治が愛を語り継ぐ、前後篇6時間半の日本初演作『インヘリタンス-継承-』

オリヴィエ賞4部門、トニー賞4部門を受賞し、ブロードウェイとウエストエンドを感動に包んだマシュー・ロペス作の『インヘリタンス-継承-』。東京芸術劇場での上演作も数多く手がける気鋭の演出家・熊林弘高氏による演出で日本初演となる今作で、物語を語り継ぐ主役のエリックを演じる福士誠治さんにインタビュー。前後篇6時間半の超大作に挑む意気込みと熊林演出の魅力、作品が持つ力と可能性についてうかがいました。
(取材・文/栗原晶子 撮影/野田涼)

悩んだりもがいたりする人生って
実は悪くない気がします

―― 『インヘリタンス-継承-』への出演依頼を受けた時の印象からお聞かせください。

お話をいただく前に、演出の熊林弘高さんが大作を手がけるらしいという噂を耳にし、役者仲間と話していたことがありました。上演時間が6~7時間ある舞台だと聞いて「それを演る役者は大変だね」なんて笑っていたのですが、いざお声がけいただいたらこれは笑っている場合じゃないなと。
でもお話をいただいた時に運命を感じ、やるべき作品だと直感したので、覚悟を持ってお引き受けしました。

―― 熊林さんとはこれまでも作品をご一緒されていますが、福士さんが感じている熊林演出の魅力とは?

熊林さんは作品に流れる哲学を今の人たちにどう伝えるかを考えている方ですね。例えば古典作品も今、自分が演出するならこういう形になるということを常に考えている。僕にとって初めての熊林さん演出作は『狂人なおもて往生をとぐ』(2015年)でした。この作品でご一緒した俳優の大先輩で亡くなられた中嶋しゅうさんが舞台の稽古時に、「熊が言うことをやれば、俳優は得するんだよな」とおっしゃっていたのがとても記憶に残っています。当時はよくわかっていませんでしたが、その後、何作か演出を受けて、今はその意味がわかります。ミュージカル『INTO THE WOODS-イントゥ・ザ・ウッズ』(2022年)でも、僕は信じられないくらい飛んだり跳ねたりさせられたんですけど(笑)、結果的にとても印象に残る表現をさせてもらえた。僕にとって熊林さんは、信頼できる演出家です。

―― この物語を「語り継いでいく」人、エリック役には、どのようなアプローチで臨まれますか?

いつもそうであるように、エリックの人物像や共感できる点、時代背景を考えて準備はします。が、今回は群像劇のような人との関わりが色濃い作品なので、目の前の相手とどれくらいぶつかれるか、その上で熊林さんが何を表現したいのかをやりとりのなかで軌道修正しながら作り上げていくことになると思います。まずは嫉妬や愛憎など、誰もが持っている感情を素直に捉えていきたいです。
でも一番の問題はやはり台詞覚えですね。6時間半の舞台というのはこれまでに経験がないですし、もしかしたら一生で最後かもしれません(笑)。

―― この大作を観客はどのような姿勢で観劇するといいでしょうか?

インヘリタンス(継承)の名の通り、約50年間の同性愛の人たちを取り巻く歴史や社会を背景に、さまざまな世代の人物が登場します。ヘンリー(山路和弘さん)やウォルター(篠井英介さん)ら60代は彼らにとって過酷だった経験をしてきた人たち、僕が演じるエリックは30代で中間層、アダムやレオ(新原泰佑さん)たちは、エリックの後輩世代で、また少し異なる今の社会を背景に生きている。パッと一面で見るとごちゃごちゃと複雑な相関図に見えるかもしれませんが、それぞれが人生を積み重ねながら関係が生まれていきます。この二人がカップルの時は、この人とはまだ出会っていないとか、人と人との関係が時の経過で変わっていく様を順々に追いながら見ていくと、物語をより深く楽しめると思います。
友だちだった二人が恋人になったり、パートナーだった相手が今はすごく話ができる友人になったりもしますが、それって誰の人生にも起こりうることですよね。自分の代わりに人生を見せてもらうような気持ちになるのかもしれません。

―― 人生の手引きのような作品ということでしょうか?

悩んだりもがいたりする人生って実は悪くない気がします。一番悪いのはすべてに無関心で心が動かなくなった時。一喜一憂して、誰かを好きになったり、振られて泣いて飲んで、友だちになぐさめられて、また恋仲になって。この『インヘリタンス-継承-』には退屈するような人たちがいない。
悩んだりもがいたりするエリックたちの人生が観てくださった方の人生において何かの手助けになってくれたら最高です。(次ページへつづく)

 

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