(取材・文/小野寺亜紀 写真提供/梅田芸術劇場)
ガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』を原作に、『NINE』の黄金コンビである脚本家アーサー・コピットと作曲家モーリー・イェストンによってミュージカル化された『ファントム』は、2004年に宝塚歌劇団宙組で日本初演。“オペラ座の怪人”と名乗る、仮面で顔を隠した青年エリック(ファントム)の生い立ちや心の葛藤を丁寧に描いた物語と、耳に残る美しい旋律が感動を呼び、再演を繰り返している。
城田さんは2014年にダニエル・カトナー演出の本作で初めてファントム役に挑み、その経験を踏まえて2019年には演出・主演に挑戦。開演前から19世紀後半のパリへ観客をいざない、ときにケレン味さえ感じさせる斬新な演出に、役の心情を大切にする芝居と歌を織り交ぜ、ミュージカルとしてのバランス感覚に優れた『ファントム』を生み出した。
待望の再演は基本的に4年前の演出を踏襲しながら、映像をさらに効果的に使用。パリの街並みや地下深いオペラ座に臨場感をもたせ、心象風景も表すような工夫が凝らされている。手に汗握るアクションやダイナミックなシーンあり、シンプルなセットのなか芝居や演者の呼吸にまで集中できるシーンありと、メリハリのある演出。この作品のメロディを熟知してる城田さんならではの照明やセット転換の妙も加わり、本作が持つ「光」と「闇」の明暗がくっきりと浮かび上がるのが興味深い。
例えばクリスティーヌの浮き立つ心を表したようなパリの街並みのカラフルな色彩には一緒になって胸が躍り、ファントムの影に怯える人々の迫力あるコーラスからのダークな色調の変化には心がザワザワ。この引きずりこまれるような本作の魅力を、客席を使った演出も含めて城田さんがうまく引き出している。パリの街では七色に輝く幸せの象徴のような街灯が、ファントムの棲家であるオペラ座の地下では斜めに倒れ、いびつな形を成す。グリーンの仮面をつけ、緑に覆われた世界に住まうファントム。気づけばクリスティーヌの白いドレスの裾も緑色。彼女の心がファントムに寄っていっているのが分かるような演出だ。
1
2