「武さんの本質の部分に目を向け、自分に落とし込んでいきたいです」
（取材・文／小野寺亜紀、撮影／ハヤシマコ）
ビートたけしさんの原点が描かれた青春自伝「浅草キッド」（講談社刊）が、音楽劇として初舞台化される。2年以上前にオファーを受けたという林遣都さんは、「まさか自分に!?と当時は驚きましたが、やるからには覚悟をもって取り組まなければと思い、そこからゆっくり準備を進めてきました。よく『プレッシャーがあると思うのですが…』と言われますが、もうそこは乗り越えている段階です。今は武さんの役を演じることの喜びや、福原充則さん、山本耕史さんたちと作っていける楽しさのほうが上回っていて、重圧をすべて力に変えています」と落ち着いた様子で語る。
第62回岸田國士戯曲賞を受賞し、ドラマ『あなたの番です』（NTV）など映像分野での活躍も続く福原さんの作品に出演するのは、林さんの念願だった。「稽古で福原さんが一つひとつ積み上げていく過程を見れるのが楽しく、面白いなと思う演出の連続。福原さんの言葉をその都度台本にメモしたりしています」。今作では大学を中退後、武の人生を決定づける師匠・深見千三郎（山本耕史）との出会い、苦楽を共にした芸人仲間や、力強く生きるストリッパーなど、浅草・フランス座での人間模様が生き生きと描かれる。
「当時浅草で活躍されていた芸人さんなど、固有名詞がたくさん出てくるんですね。もともと武さんのことを好きな福原さんが、愛情と敬意をもって本を書かれているのが伝わってくるので、一つひとつの言葉を大事に発していかなければと思います。漫才のシーンも福原さんはコントだけではなく、劇場の雰囲気や当時のお客さんとのやり取りなど、今では考えられないような光景を大切にされて、見応えあるものになると思います」。
これまで映画化やドラマ化もされた原作だが、やはり生の舞台だからこそ伝わる部分があると感じている。「当時を知らない人には、こんな町があったんだなと思うでしょうし、この時代を生きていた人たちにとっては、懐かしい匂いが伝わるはず。アンサンブルの方々もキャラクターが色濃く伝わるように作りこまれているので、当時の浅草の空気感を出していけたら」と意気込む。
また唯一無二の存在として、今も多方面で活躍する北野武さん役を演じるうえで、林さんが早い段階で意識したことは、「武さんを真似しようと思ったら、遠のいてしまう」ということ。「見た目も声も違うけど、『若い頃ってこうだったんじゃないか』とお客さんに思わせるところを目指したいです。武さんのクセも『なぜそれが生まれたのか』とか、自分なりに掘り下げ、テレビ番組やお笑いをされているときの武さんから見えてこない部分を探したい。きっと若いころからあまり変わってない部分があるはず。シャイで繊細な方ですが、間違いなく若い頃から肝がすわっていたとか…。本質の部分に目を向け、自分に落とし込んでいきたいです」。
さらに今作の見どころが名曲「浅草キッド」以外にも登場する歌や、タップダンスなどを盛り込んだ音楽劇という点。「生演奏ですし、音楽監督の益田トッシュさんがいろんなジャンルのオリジナル音楽を制作されています。曲によってはライブを楽しんでいただく感覚でもいいのかなと思うぐらい、曲が充実。タップダンスはRONxⅡ（ロンロン）先生のタップを間近で見てまず感動したのですが、それを全部託されているので…(笑)。かなりの難易度のもの、これができたらお客さんをびっくりさせられるのではという振付になっているので、純粋にエンターテインメントとして楽しんでもらえると思います」。
林さんにとって「初めての経験がたくさんで、大変なことが山積み」と言うが、表情は明るい。「自分が最初に曲や脚本に抱いた感情をお客様にも感じていただけるよう、しっかり稽古を頑張りたいなと思います。シンプルに、ワクワクする舞台だと思いますのでぜひ遊びに来てください」。
音楽劇『浅草キッド』
東京公演／2023年10月8日（日）～10月22日（日） 明治座
大阪公演／2023年10月30日（月）～11月5日（日） 新歌舞伎座
愛知公演／2023年11月25日（土）・26日（日） 愛知県芸術劇場 大ホール
原作：ビートたけし
脚本・演出：福原充則
音楽・音楽監督：益田トッシュ
出演：林遣都 松下優也 今野浩喜 稲葉友 森永悠希 紺野まひる あめくみちこ／山本耕史 他