(撮影/望月研、取材・文/小野寺亜紀)
林遣都は「芝居に取り組む姿勢や情熱が人一倍」
――林遣都さんとは2022年のドラマ『初恋の悪魔』(脚本:坂元裕二さん、チーフ演出:水田伸生さん)で初共演されました。当時、林さんのお芝居に何か感じるものがあったのでしょうか。
ビビビときました。だいぶ古い言葉ですが(笑)。やっぱり引き込まれるというか、何より一緒にお芝居していてすごく楽しかったんです。芝居に取り組む姿勢や情熱が人一倍強い方で、それは僕だけでなく、いろんな方が感じていると思います。
――ドラマではお互い緊張感のある隣人関係から次第に変化していく役柄でしたね。
一緒に地下室に閉じ込められ、丁々発止の芝居をする回があったのですが、リハーサルではやらなかった動きが2人から自然に出てきて、ポンポンと対応されたんですよ。そのときに「楽しい!」と思った感覚が忘れられず、舞台のオファーをしてみたら引き受けてくれました。2人でやっていて波長が合った時のグルーヴを、初演のときにも感じることができたので、またこの人とできたらいいなと思っていたら再演が叶い嬉しいです。
彼はこれからも大きな存在の俳優になっていくと思います。大好きなんですよ! お芝居をしている林さん以外は知りたくないぐらい(笑)。今ずっと稽古場で一緒にお芝居していますけど、全然飽きないし、輝きが素晴らしい。そういう方とまたご一緒できるのは、すごく幸せなことです。

――『死の笛』は安田さんご自身が企画・プロデュースをされた舞台ですが、原案はどういうところから?
原案は坂元裕二さん(脚本)に任せ、好きに書いてくださいとお願いしました。プロデュースと言っても、僕がやったことと言えば、林さんに「2人芝居やりませんか」、坂元さんに「本を書いていただけませんか」、水田伸生さんに「演出してくださいませんか」と声を掛けたことと、チェロで「鳥の歌」というのを聞かせてほしい、ということだけでした。坂元裕二さんの本が面白いのは間違いないですし、坂元さんと『Mother』など名作ドラマでタッグを組んでこられた水田さんの演出も間違いないですから。坂元さんは再演するなら改稿したい、そして本にしたいとおっしゃって。それだけの思いでこの作品に取り組んでくださるなんて、こんなに嬉しいことはないなと思いました。
――2024年の初演を終えたとき、インスタグラムで「やっと代表作に巡り会えました」と伝えられていましたね。
それまで培ってきた経験やご縁が、こういう形で結びついたことが嬉しかったんだと思います。自分の人生の積み重ねでできたことなので、代表作という言い方をしたんでしょうね。本を書き下ろしてもらえたことにも本当に感謝しています。台本を棺桶に入れたいと思うくらいです。僕自身、キャスティングを担ったことはなかったので、作品を背負えたという部分も相まって、あの言葉になったんだと思います。

――大学時代からお芝居を始められ、今52歳。ずっと俳優を続けてこられたなかで、キャリアの糧となるような作品とも出会い、理想とする俳優像に少しずつ近づいてきた、という実感はありますか。
実は今回のお稽古で痛感したのが、「あれ、自分下手だな」ということでした。「もっと上手になりたい」と思えたこの稽古期間は、自分にとって身のあるものでした。
――それだけハードルの高い作品ということでしょうか。
再演なので、ひょっとしたら前はできていたのかもしれないな、というふうに思いました。忙しさにかまけて、表現力がもう少し必要な状態なのかもしれません。もっと稽古を重ねて、自分なりに精一杯お届けしようと思っています。
――前回得たものを踏まえて、ブラッシュアップできているところもあるのでは?
2年前のことは断片的にしか思い出せないんですよ。「当時はこうやっていたな」と、少しずつ思い出したりもするんですが。でも、思い出さないままやっているところは、それでいいと思っています。なぞろうとしないので。坂元さんの改稿で、細かいところがいろいろ変わっているんです。演出もずいぶんブラッシュアップした部分があります。それも全部プラスに転じていると思うので、初めて『死の笛』を観る方も、2年前にご覧になった方も、また味わい深く新鮮に感じていただけると思います。

改稿で変わった言葉が大きなキーワードに
――戦場の厨房が舞台ですが、どのような物語だと捉えていますか。
言語が少し変わっていて、国も架空の国です。日本語ですが“てにおは”が少しずれているというか。「ヨヨコの叫び声、聞こえるした。お父さんが寝るしてて――」というような言葉がずっと続くのですが、聞いているうちにだんだん理解できてくる面白さがあります。よく聞くと、この言葉は難解なようで明快なんです。好き、嫌い、考える、美しい、汚い。そういうシンプルな単語として出てくるので言葉が際立ち、分かりやすい。その意味合いがいろいろ変わってくるところは、翻訳に近い感覚だと思います。「To be, or not to be―」(シェイクスピア作『ハムレット』の名台詞)をどう訳すか、どう解釈するか、という感覚です。
――面白いですね。
シンプルな分、感じてもらえることがすごくあります。僕は高尚なものを高尚にやる舞台は、観ていて面白くないと思うのですが、これは笑ってしまう舞台。笑わせようとはしていませんが、思わず笑ってしまう部分がたくさん出てきます。「あぁ、この人たち、ちょっと愚かだな」というような感じで。ただ、観終わった後に残るものは、また違うと思います。生と死、人を恨んで生きるのか、愛情を持って生きるのか、どちらを生きがいにするのか――。そうしたテーマを、坂元裕二さんは言葉で説明することをすごく嫌います。言葉で説明するのは誰でもできる、とおっしゃっていました。
――今までの坂元さんの作品もそうですね。
はい。「戦争反対」と書けば簡単じゃないですか。そうではない言葉で伝えるのが僕らの仕事で、お客さまもだからこそ感じ取れるんじゃないか、という考え方です。とにかく面白く、興味深く観てもらえることは間違いないです。

――その物語のなかで、役としてのお2人の関係性というと?
僕は(厨房の)ベテランで、林さんは新人です。僕の役は復讐心を生きがいに頑張っていて、林さんの役は恋心を生きがいに頑張っているという対比があります。今回、僕の役の口癖だった「馬鹿者め」が、改稿で「知能がない」という言葉に変わったんですよ。どうして変えたんだろうと思ったんですが、それがすごく大事なキーワードになっているんです。
シンプルな言葉であるがゆえに、俳優が発する音というのが必ず変わってくる。だから演じる人や座組、演出の考え方で解釈が変わってくると思いますし、それがやっぱり醍醐味であり面白さですよね。坂元さんが書かれたこの本を、これからもいろんな方に演じていってもらえたらいいなと。それを坂元さんも願っているから、今回出版という形にされるんだと思います。

――この作品から届く希望の光のようなものがあるとすれば、それは何でしょうか。
“日常には、生きていると実感できることがたくさんあるよ”ということだと思います。腹が立つこと、嬉しいこと、人を愛すること、憎しみを持つこと、ものを食べること、笑い合うこと。すべて生きているからこそできることです。考えることをやめるのは、知能が停止したということ。それは死んでいるのと同じです。当たり前だと思っていることが、なぜそうなのかを考え、一人で導き出せないならみんなで一緒に考える。そこで一つの答えが出るかもしれない。それはすごく楽しいことじゃないかと――。僕はこの作品でそういうことを感じています。

――作品にちなみ、安田さんの今の生きがいを教えてください。
トイプー(トイプードル)のお腹ですね(笑)。すぐお腹を見せるんですよ。大型犬にも、トリマーさんにも。僕にもすぐ「ん?なでる?」って、パッとお腹を出す。あの匂いをかぐのはたまらないです、あったかくて。生きがいですね~。
あとはお芝居をしていて「楽しかったな」と思う瞬間。働くこと以外に楽しみを見出すのが本来なんでしょうけど、そこは難しいところです。楽しいなと思うことが少なくなったなかで、お芝居をしていて時々「うわ、めちゃくちゃ楽しいな、今」と思う瞬間があるんです。あれは生きがいだなと思います。
――『死の笛』もまさに?
まさにそうです。だから一つひとつの公演が、自分にとって大切です。再々演があるかは分からないので、全力でやらせていただきます! 大阪は出来上がったものを皆さんに届けられるので、大阪でご覧になる方は本当にラッキーだと思います。ぜひ多くの方に観ていただきたいですね。

舞台『死の笛』
東京公演/2026年7月3日(金)〜7月12日(日) IMM THEATER
札幌公演/2026年7月17日(金)〜7月19日(日) 札幌サンプラザ コンサートホール
大阪公演/2026年7月24日(金)〜8月2日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
企画・プロデュース:安田顕
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生
出演:安田顕 林遣都
公式HP https://www.teamnacs.com/stage.php?ex=2026_03

