「いつかこの5人のバンドでツアーに行きたい」
――初演、再演と演じられてきて、特に気に入っているシーン、心に残っている場面を教えてください。
戸塚 僕は耕平くんが演じるピート・ベストが解雇を通告されるシーンです。キラキラした華やかな世界を描いているんですけど、プロフェッショナルの世界でもあって、光があればやっぱり影もある。それをセリフや動きで深く味わわせてもらいながら、耕平くんのピートのドラムスを全身でしっかりと受け止めて、スタンバイしています。
加藤 思い入れのあるシーンしかないので一番を決めるのは難しいのですが、しいて言えば冒頭の場面です。暗闇の中にぼうっと光が差して、戸塚くん演じるスチュが絵を描きはじめ、そこに出演者の全員が集まってくる。それがなんとも不思議な空間で、そこにいるのは戸塚祥太なのか、スチュなのか…。そこからだんだんスチュになっていって、みんなもだんだんビートルズになっていって、ここから始まったんだねとわかるシーンなんです。スチュが全力で絵を描いている姿を見ると冒頭でもう泣きそうになるので、ぜひ注目していただきたいです。
辰巳 僕はポールが「今日から俺がベースを弾く。いいだろう」と言うところが好きです。演じるにあたってジョージ・ハリスンという人物について文献を読んで勉強して稽古に臨んだんですけど、稽古場でお互いを役名で呼び合って、役の気持ちが高まっていく中で、目の前にいるポールが「今日から俺がベースを弾く。いいだろう」って言った瞬間、胸の中からも湧き上がってきた複雑な感情が「これがきっとジョージ・ハリスンが思っていたことなんだな」って感じたんですよ。あれはビートルズが誕生した瞬間の一つで、大好きなシーンです。
JUON 僕もいっぱいあるんですが、みんなで演奏している時が、もうめちゃくちゃDNAが騒ぎっぱなしで煮えたぎった感じで、最高です!
上口 僕はポールとジョンが「プリーズ・プリーズ・ミー」を作るところ。ふたりの天才が手を取り合う瞬間で、歴史がガッと動く大きな場面だと思っています。ただ単に、そこのふたりが大好き。本当にこのふたりはこういう風に楽曲を生んだんだろうなっていうのが見えるんですよ。ふたりの天才がお互いを認め合う瞬間。最高のシーンで、大好きです。

――石丸さんの演出はいかがでしょうか。
戸塚 エネルギッシュな現場で、石丸さんは気持ち、魂みたいなものがすごい方だなと初演の時から感じています。石丸さんには明確なビジョンがあって、覚悟もあって、でも演者たちに自由も与えてくれる。その自由度の中で彼女の絵筆になって、絵の具になって彼女のアートを作り上げる、というイメージで最後までやり切りたいです。
加藤 作品と役者への愛にあふれている方で、そこがすごく素敵で信頼できるところです。その分求めるものは高いし時には厳しい言葉を頂くけど、一緒に走ってくれるし、誰よりも楽しんでくれる一番のお客様でもあると思っています。
辰巳 そうなんですよね。石丸さんは前回は全公演観てくれて、目を真っ赤にして「もう最高!すごかったね!」って感想をくれたんです。「今日はちょっと噛み合ってなかったね」みたいな日ももちろんある。客観的にも主観的にもこの作品を観てくださる。その両方のバランスがすごい方です。稽古場では「こうあってほしい」というのを明確な言葉で言ってくださるし、余白もくださるので余白の埋めがいがある。やりやすいという言い方は好きではないですが、シンパシーを感じながら一緒に作れる演出家さんだと思っています。
JUON 僕にとっては師匠なんですよね。演出家という存在に初めて出会った、僕が役を頂いた初めての演出家さん。石丸さんに見えている景色があって、それと同じ景色が見えた時に自分の役の時間が動く。そこにジャッジポイントがある。
戸塚 あー、自分の時間が動いた時、その瞬間が一番…。
JUON そう。その瞬間が自分のベーシックになる。最終的には自分らしくいられるし、ポールという役と僕自身をすごいところに導いてもらえる。僕は初演、再演と演じてきたことで力を抜けるポイントが見えてきたんですが、それに合わせて石丸さんが「JUON、これ行けるでしょ」って、より素晴らしい演技にできるように求めてくださるんですよ。作品がどうあるべきか、今の僕に何ができるかを、両方フラットに見てくださるので、完全に師匠なんです。
上口 僕はさち子さんの作品にはこれまで数作出演させていただいています。演劇って想像じゃないですか。ステージをレーパーバーンにして、ドイツにして、時代も変えて、場所も変えて、それはすべて想像で、それこそが演劇の奇跡だと思うんです。さち子さんは誰よりもその奇跡を信じてる方。だからさっきJUONくんが言った「景色」が僕らにも見えてくる。それがお客様にも伝わっていく。そういう力が強ければ強いほど、演劇ならではの面白さが膨らんでいくんですよね。前にやった『翼の創世記』という作品でも小さい稽古場で飛行機が飛ぶ場面で、飛んだ時にさち子さんの顔を見たらキラキラした目で大空を飛んでいる飛行機を見ている顔をしていて「この信じる力で僕たちは進んでいるんだ」と思いました。作っている人が、誰よりも演劇の奇跡を信じているということが、僕は一番好きです。

――皆さん5人のチームワークの高まりを感じた部分など、関係性での印象的なエピソードを教えてください。
戸塚 その連続なんですけど。
上口 ありすぎて。
戸塚 初演の時の距離感がどうだったかもう思い出せないくらいの関係になってしまっているのですが、もちろん馴れ合いなんかはなくて。でも今回の公演でバンド練習の初日にスタジオに来たらジョージとポールがいて、二人の笑い声を聞いた瞬間、一気に時間が戻って、僕も『BACKBEAT』のバンドの中に入れたんです。それはすごくよく覚えています。
加藤 初演の時もバンドリハから始まったんですよ。最初お芝居からだとどうしても相手の出方を探ったり、よそよそしさがあると思うんですけど、何も飾ってない状態でバンドの練習から始めたので、本当にそこでビートルズが生まれた瞬間があって、それは印象深かったなと思います。
JUON たしかに。音を出した瞬間に、本当に音楽が僕らをつないでくれているので。
戸塚 魔法ですよね。
上口 あの、会った日の事って覚えてる?
JUON 一番最初?
上口 うん。僕は忘れられなくて。和くん(加藤)のことは知ってたけどほかのみんなのことは初めてだったし、僕はバンド経験もないし、楽器も初めてやったので不安だったんですよ。僕にできるんだろうかと。何よりもそこにJUONくんというプロのミュージシャンがいる。本当にドキドキしてたんです。でもJUONくんが入ってきた時にお日様みたいに「イエーイ!!」って。
全員 (笑)
上口 で、音鳴らした瞬間に「最高ジャーン!!!」って。その瞬間、僕の中でガチーンってハマった感じがしたんです。それまでは緊張してて、このリズムじゃやりづらいよと思われないか、プロのミュージシャンにはどう聞こえるんだろうって無茶苦茶考えていたんですけど、あそこで全部ぶち壊してくれたので。
戸塚 (笑&拍手)
JUON 僕も左手(左利きのポール役なので左手で演奏)必死だったんですよ。一番緊張してたのは僕かも。
加藤 それはそうだよね。
辰巳 初演の時から公演期間が終わってもずーっとグループLINEが動いてるんですよ。ずーーーーっと。遡れないくらい。
加藤 うん。そんなグループLINEあまりないよね。
上口 本当に頻繁に動くんですよ。それぞれ行った場所とか、家族くらいに報告しあって。
辰巳 『BACKBEAT』のスタッフさんとまた一緒だよとか。写真とか。今も焼肉行く日の希望日のアンケートを和くんが取ってくれてたりするし。あと、僕はグループ(ふぉ~ゆ~)を15年やってるんですけど、15年やっててもあんなに2人で1つのマイクで歌うことなんてないんで、ふぉ~ゆ~とは別のグループがもうひとグループ自分の中にある感覚があります。この伝説の終わり、そして始まりを僕は信じています。『BACKBEAT』という伝説はここで終わるかもしれないけど、このバンドとしては本当に僕は、本気でやりたい。
戸塚 バンドとしてね。
加藤 新たなね、我々の。
上口 何度も言ってるもんね。
辰巳 このバンドでツアーとかやりたいです。その時はどうぞお力添えを。
JUON 僕たちその景色が見えちゃってるもんね。やってる景色が見えてる。
戸塚 どこから伝説が始まるかわかんないからね。
JUON いいねえ。今だったりしてね。
全員 (大爆笑)
加藤 常にこんな感じです(笑)。

――今回パワーアップしてるところを教えてください。
辰巳 パワーアップしかないんですけど、さち子さんが「初演、再演で積み上げてきたものを捨てる勇気を持って、またここからスタートしよう」と言ってくれたんですよ。
加藤 どうやっても俺らの中にあるんですよ。その時の経験、感覚は。再演ものの難しさの一つに、どうしても前回をなぞっちゃったりすることがあるんですけど、結果的にそうなってしまうのはいいよとさち子さんもおっしゃっていて、でも辰が言ったように、それを捨てて新たなものを作る、それができるレベルになっているので。
辰巳 現状、なぞってる感はまったくない。
JUON 同じシーンでも年齢を重ねて、各々いろんな経験をしてきて、より深く理解できるように、いい方向に変わってると思うんです。歳が上がったからわかんなくなったというネガティブ方面は一個もない。これはいい方向にしかいかないですよ。
上口 初演から『BACKBEAT』のスタイルをみんなで模索してきました。初演は荒削りな部分があって、再演では疾走感を目指して、すさまじいスピードで生きていく若者たちがいて。で、今回はスタイルが確立されているからこそ、そこに生身の人間が生きているという感覚がものすごくパワーアップしていると思います。
全員 (頷く)
上口 今までは『BACKBEAT』という舞台のスタイルをみんなどこかで意識してたと思うけど、年齢を重ねるうちに人間くささが刻まれて、本当にそこに生きるということができてきているんじゃないかなと思います。
辰巳 スチュとジョンの、今日(稽古場会見で)皆さんに見ていただいたシーンが違うシーンに見えるくらい深みが違うんですよ。台本は変わってないし、違うことをしようとしているわけじゃないのに。
加藤 深みが出て、それが自然に出ちゃう。
辰巳 うん。
戸塚 それぞれが、初演から再再演までの間のそれぞれの生き方が、出る。たぶん修羅場をくぐってきたんだなみたいなことを感じますよね。あの時はわからなかった映画が、5年後に見たら「あ、こういうことだったのか」ってわかるようなことあるじゃないですか。
加藤 あるある。
戸塚 演者自体が進化してるのももちろんですけど、観測してくれる人たち(観客)も進化してるから、そこの解像度が上がってるから、わかるようになっちゃってるはず。楽しんでくれる人たちも上級者になってます。

――さっきJUONさんが「イエーイ」と入ってきたとおっしゃってましたが、それはバンドはこうあるものとしておやりになったのか、それとも楽しくなってやっちゃったということなのでしょうか。
JUON もう楽しくなってやっちゃいました! 根っからそんな感じです。
戸塚 ナチュラルボーン。
上口 本物が来た!と思いました。
戸塚 僕の辞書の中では「裏表がない」って項目を調べると。
戸塚・加藤・辰巳・上口 「JUON」
戸塚 って書いてあるんです。
JUON (笑)。お邪魔します!
加藤 JUONはとにかく素直なんです。理想のバンマスだなと思います。それでいて、音のことに関しては、ジョージのこともそうだし、全部やってくれたりとか、そこをまとめ上げてくれるんですよ。自分も大変なのに。押し付けがましくじゃなくて、一緒にやってくれる。

――それぞれ音楽の系譜も違う中で一つにしてくれたのはJUONさんなんですね。
辰巳 そうですね。僕も最初は怖くて、ギター弾けなかったのに弾けるって嘘をついてキャスティングしてもらったので(笑)、一日8時間くらいのギター練習を重ねてきたんですけど、初めてバンド練習やる時には本当に怖かったんです。そうしたらJUONが、「ジョージだよ、音が」って言ってくれたんですよ。
JUON 音が、すぐそのスポットに入るんですよ。でもうまくなっていくとどんどんツルッとしていっちゃうんで、だからそのままでいてほしいから、様子見ながらやって、ちょっとうまくなっていくと「待って待って。そのままでいて」って。
辰巳 それ知らなかった!
JUON 手綱引いてたの。計画的にはやってませんよ(笑)。
辰巳 でもその最初の言葉で心の緊張がほぐれて、バンドって楽しいものなんだって感じれたので。
加藤 こんな気を使わないメンバーもないよね。
JUON うん。初めてバンドをやったってところからの人もいますけど、今はもう耕平くんのドラムじゃないとダメだって感じるようになっちゃった。違う人だと全然面白くない。ピート(上口)ももう、ポール(JUON)じゃないとダメだろうし。あなたがいなきゃダメって、この音は出ないってことになっちゃった。
――最後にお客様へのメッセージをお願いします。
戸塚 すべての舞台、すべてのエンターテイメントには、その作品ならではの味わいがあると思います。もちろんこの『BACKBEAT』もそうです。今回はファイナルということで、本当に最後の 1回なんで、少しでも興味がある方は、ぜひ劇場に遊びに来てほしいなって思っています。一緒に遊びましょう。

『BACKBEAT』は、愛知・大阪での公演を経て、5月3日(日祝)~17日(日)まで東京・EX THEATER ROPPONGI にて、その後、兵庫にて上演される。詳細は下記公式サイトにてご確認を。
https://www.backbeat-stage.jp
