(取材・文・撮影/小野寺亜紀)
ふたりで芝居をしていて「居心地がいい」
――おふたりの出会いは、2015年のミュージカル『RENT』ですか?
村井良大(以下、村井):そうです。ちょうど10年前ですね。
spi:そのころの俺は、「ほかの俳優、ぶっつぶしてやる!」と思っていたぐらい、めちゃめちゃ尖ってて。
村井:アハハハ。
spi:今は全然そんなことないけど(笑)。当時は誰も寄せつけない雰囲気だったのが、良大とは普通に喋ってたよね。
村井:うん。
spi:良大が役のマークにハマっていたのもあったと思う。俺が演じていたお金持ちのベニーは、ほかのキャラクターとはケンカみたいな感じだけど、マークとは普通に喋る役だったから。それに良大は演劇オタクなんですよ。舞台のメソッドみたいなのをすごく突き詰めてて、俺もそうだったから、きっとお互い「この人できるな」と思ってたよね。
村井:僕はまず歌稽古で、その美声とパワーに「すげぇ!」となったのが第一印象。
spi:へー、嬉しい(笑)。
村井:稽古の前とかに、彼がセットの裏で横になって寝ていて、「なんか不思議な人だな~」と思って見てた(笑)。あまり自分を見せない人も多いなかで、包み隠さず「僕はこうです」と見せてくれるところが、逆に心地いいというか、信頼できると思っていました。
――それから年を経て、2022年の『手紙』での共演になるのですね。
村井:そうなんですよ。
spi:LINEでメッセージは送りあってたよね。
――3年前久しぶりの共演で、この難しい兄弟役を演じられていかがでしたか?
村井:お互い「こうしようか?」「うん、そうしよう」とリハーサルが1回で済む感覚。「これが正解」というのを共感できるから早いんですよ。そういう相手、なかなかいないから不思議です。
spi:そうだよね。
村井:芝居をしていて居心地がいいから、兄弟っぽくも見えるのかな。空気感というか。藤田さんも言ってたよね。
spi:あぁ、言ってたね。
――藤田俊太郎さんの演出はいかがですか?
村井:柔軟で、俳優を圧倒的に信じてくれる方ですね。舞台上で俳優が何を思い、何を感じているのかということを、すごく大切にしてくださる。作品や俳優との真摯な向き合い方が、ストレートにお客様にも届くような舞台づくりをしてくださるなと感じます。すごくやりやすいよね。
spi:うん、非常にやりやすい。
村井:やりやす過ぎて「大丈夫ですか?」というぐらい、全肯定の演出家ですね。
spi:藤田さんとは何回か一緒に仕事をさせてもらっていますが、本当に面白い方だし、ものづくりがすごく丁寧です。ちゃんと説明してくれるしね。最近気づいたんだけど、めちゃくちゃオスだなと思った瞬間があって……。
村井:オス!?
spi:演出家の領分と他人の領分にすごく気をつけていて、「演出家としてはここまで言っていい」とか、俳優、音楽チーム、舞台監督チームなど、それぞれとの線引きがはっきりしてるんですよ。ライオンみたい。
村井:(笑)。
spi:相手のラインに踏み込むときは、押し付けるんじゃなくて、必ず「一緒に協力してやりましょう」という言い方をされるんです。俺、一度違う人の領分に踏み込んでしまったことがあって、そのときは怒られました。それまでの藤田さんは柔らかい、「何でもいいですよ」という感じだったのに。男らしくて「ついていきたい」と思った。自分のプライドを持ちながら、思いをしっかり伝えるという力もあり、やっぱり人間として素敵な人だなと思いましたね。
――2025年版の『手紙』は演出面でも変化があると伺いました。2022年版から変わったなと感じるところを、ご自身の心情面も含めて教えてください。
村井:今回、新たにキャストとして子役を迎えているんです。僕が演じる直貴の娘「実紀」役なのですが、やっぱりその子がいることで、作品の完成形が見えたなと。2025年版にとってそこは大きいですね。
spi:大人のキャストが11人というのは変わってないのですが、実紀ちゃんという子どもの役が加わって12人になります。さらにこの作品は初演からどんどん大きな劇場へとサイズが変わっていて、それにともないミュージカルの音楽部分、BGMや歌が前回に比べて多いです。だから大きな劇場で、より音楽を体感しながらお芝居を楽しめる方向になっているかと思います。そして藤田さんがお客さんとの共感を大事にされる演出家なので、台詞の端々に「今の時代だったら――」というマイナーチェンジが結構あります。
村井:稽古をしながらいろいろと気づかされることがあるけど、この作品は加害者家族への差別が大きなテーマでもあって、「差別」という言葉が年々強く響くようになっている気がします。今の世の中の「絶対に許さない」という意識が、今年はさらに感じられて、生々しい重さを持ったまま演じられそうです。
(次ページへ続く)
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