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闇の中で光を見出したファントムの喜びと絶望

エリック(ファントム)役 加藤和樹

この4年の間に様々な舞台でキャリアを重ねた加藤和樹さんのエリックは、面白いことに子どものまま大きくなったような幼さと、芯にある純粋さがますます増した印象で、クリスティーヌ(真彩希帆)という「音楽の神に愛された」女性を見つけた喜びが身体全体から溢れ出ている。彼女と出会ったときの歌『ホーム』の、真彩さんと加藤さんとの透明感ある歌声の交わりは想像以上の心地よさ。そしてクリスティーヌに常に笑顔を向ける加藤エリックだからこそ、シャンドン伯爵と彼女との仲を知って打ちひしがれる『崩れゆく心』のナンバーが切ない。その後、エキセントリックな行動へと移っていく「闇」の根底に、「邪悪なものを近づけさせない」とする、彼女へのピュアな愛が見え隠れするのが、また涙を誘う。

加藤さんが“クリスティーヌと同じ目線で音楽を愛する親密さ”を感じさせるエリックだとしたら、城田さんのエリックは、“音楽の師としての包容力”も感じさせる、大きさがにじみ出ていた。それはクリスティーヌに歌のレッスンをするときの発声や、オペラ座を揺るがす事件を引き起こすときのどこか冷静沈着な雰囲気などにも表れていたように思う。だからこそ、自分を制御できないときの底知れなさにドキドキとさせられ、キャリエールに饒舌に自分自身の想いを打ち明けるときの精神の幼さや彼の中にある「愛」の深さに驚き、惹きつけられる。

フィリップ・シャンドン伯爵役 城田優

また、城田さんはシャンドン伯爵もダブルキャストで演じるからか、シャンドン伯爵と対峙する時に一瞬見せる“情”もリアルに伝わってくる。歌い方、芝居などあらゆる面で違いを体感できる二人のファントム。加藤さんのエリックを生み出したのが城田さんと思えば、一心同体というか、二人でひとつというか。なにか感慨深いものがある。

オペラ歌手を目指してパリにやって来るクリスティーヌ・ダーエ役は、ダブルキャストのsaraさんが体調不良のため全日程休演となり、真彩希帆さんが全公演演じることに。宝塚歌劇団雪組トップ娘役として2018年に同役を演じたときも、「天使の歌声」が存在するなら、まさにこの声か!というほどの説得力があったが、その深みはさらに増していて、好奇心旺盛な可憐さと同時に、聖母のような温かさが歌声はもちろん存在自体からも感じた。やはりエリックの母・ベラドーヴァも演じるからこその慈愛が生まれるのか。エリックにとっての最初の「光」であるベラドーヴァを体現したうえでのクリスティーヌの演技には厚みが生まれ、観客をラストの一瞬まで納得させるだけの求心力があった。また、ベラドーヴァの嘆きや苦しみを表現するコンテンポラリーダンスも心に突き刺さる。

クリスティーヌ・ダーエ役 真彩希帆

そのクリスティーヌを愛し、彼女を守り抜こうとするオペラ座の有力なパトロン、フィリップ・シャンドン伯爵役は城田優さんとダブルキャストの大野拓朗さん。ロミオ役のときのような煌めきに加え、最近は「『進撃の巨人』-the Musical-」のエルヴィン・スミス役で見せたような堂々とした佇まいが板についてきて、シャンドン伯爵でも恵まれたスタイルを活かした華やかさが武器に。彼が「光」として輝き、クリスティーヌへの愛が深ければ深いほど『ファントム』の面白さが増すのだが、それをしっかり歌と演技で表していた。

フィリップ・シャンドン伯爵(中央)大野拓朗

メインキャストで城田さんや加藤さんと同じく、4年前の公演から続投となったのがオペラ座の前支配人で、エリックを見守るゲラール・キャリエール役の岡田浩暉さん。今年上演の『DREAMGIRLS』では彼の歌の巧さを改めて実感したが、この役では声を絞り出すような、でもその中に深い味わいが醸し出されるという歌唱で言葉の意味や役の生き様を描出。彼の大きな愛が劇場をおおうときの感動は忘れられない。

オペラ座の新たなプリマドンナで、クリスティーヌの才能を妬む悪役ポジションのカルロッタ役は石田ニコルさんと皆本麻帆さん。公開舞台稽古で観た石田さんは姉御肌的なオーラにキュートさも感じさせる容姿と演技、というギャップで舞台稽古でも客席から笑いが起きる。皆本さんは声の出し方から異なり、どこか魔女的なエキセントリックさが。様々な声色を使ったソロの大ナンバーも二人の色が違って、ダブルキャストの妙を楽しんだ。

カルロッタを心底愛しているのがコミカルな芝居からも伝わってくるアラン・ショレ役の加治将樹さん、実は橋渡し的な重要な役を担っているジャン・クロードで異彩を放つ中村翼さん、オペラ座の人間模様を的確な芝居で見せる文化大臣の加藤将さん、キャリエールとの関係を少ない見せ場でもドラマティックに構築するルドゥ警部の西郷豊さん。さらに重厚なコーラスやダンスで豊かな音楽性とドラマ性を高めたアンサンブルの充実度が『ファントム』を盛り上げた。

“まことの愛”を見つけたエリックにとって、この物語は悲劇なのかそうではないのか。観客は溢れ出た涙の意味をかみしめ、余韻に浸ることだろう。

ミュージカル『ファントム』

脚本:アーサー・コピット
作詞・作曲:モーリー・イェストン
原作:ガストン・ルルー 「オペラ座の怪人」より
演出:城田 優
出演:加藤和樹/城田 優(W キャスト)、真彩希帆、大野拓朗/城田優 (W キャスト)、石田ニコル/皆本麻帆(W キャスト)、加治将樹、中村 翼、加藤 将、西郷 豊、岡田浩暉 他

※クリスティーヌ役で出演を予定していたsaraは、体調不良のため大阪・東京公演の全公演を休演。同役はWキャストの真彩希帆が全公演務める。

大阪公演/2023 年7月22日(土)〜8月6日(日) 梅田芸術劇場メインホール
東京公演/2023 年8月14日(月)〜9月10日(日) 東京国際フォーラム ホールC

公演HP:https://www.umegei.com/phantom2023/

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あのときの感動を、お手元に。
オモシィプレスVOL.3& VOL.17 バックナンバー
京本大我 舞台掲載号

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