工藤広夢
――石丸さんの演出と、森大輔さんの音楽について、魅力に感じている点を教えてください。まずDIONさんからお願いします。
DION はい(笑)。オーディションに受かった後で、舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場―を見に行ったんです。漫画のキャラクターではあるんですけど、一人一人が舞台の上でちゃんと生きていて、本当にすごいと思って。僕はこの人の演出を受けられるんだとしみじみ思いました。
森さんの音楽と、石丸さんの台本の親和性もすごいなと。僕、いろんなジャンルの曲を歌うのが好きなんですけど、今回の舞台の歌は本当にいろんなジャンルの曲が揃っているので、プレイリストにして、街を歩いている時にもずっと聴いています。
工藤 僕は、さっきお話ししたとおり5年前に『BACKBEAT』で石丸さんの作品に初めて出演しました。その再演にも出て、『マタ・ハリ』にも出演させていただきました。
ミュージカルの現場って、和気あいあいとした空気が流れているんですよ。でも石丸さんの現場は、それだけじゃなかった。「プロの俳優ってこういうことでしょ?」というのをガツっと教えてもらった気がします。「作品に向き合う」「舞台に立つ」「役を考える」とは、こういうことだよ。演出家に言われるのを待つんじゃなくて、俳優も一緒に考えてぶつけるんだよ、と。
そこのマインドが変わると、目指したい場所も変わるし、踊るときにアプローチも変わる。その結果自分の表現がどう変わったかはわからないけど、自分の中の矢印がどんどん変わっていくのを感じて、刺激的でした。それから、より「個」にぐっとフィーチャーされる感覚があるんですよ。俳優と俳優のその言葉の掛け合いのシーンとか。そういった点でもすごい自分は成長させてもらってるなと思います。
森さんの音楽は『ボクが死んだ日はハレ』を客席で見たのと、今回の舞台の曲しか、僕は聴いていないんですけど、一曲聞くたびに「やば、やば」って言ってました。すいません。急に知能指数下がるんですけど(笑)。ジャンル的にもいろいろあるし、芝居に沿ってるメロディーがすごく心地いいです。
鈴木 本当に二人の気持ちがすごくわかります。聴いていて歌いたいって思うし、歌っていて、もっとこんなふうに歌えたらいいなって思わせてくれる、すごく大事なものが詰まっている歌です。ただ、10曲多いんだよなあ。覚えられたらいいんですけど。
工藤・DION (笑)
鈴木 そしてさち子さんの演出。さち子さんは、最終的な魔法、この作品がどう見えるかを作り出すことへの才能があって、同時に、演出家が演出家たる所以を持って、座るべき椅子に座っている、日本における稀有な演出家です。
これ、絶対に書いてほしいんですけど、演出家は、パイロットであり、航海士であり、一番航路を知ってるのか、一番頭がいいのか、一番強いのか、一番器があるのか、とにかく何かそういうものを持っていて、稽古場を作り、演技指導をし、俳優やスタッフに向き合う仕事で、僕は一俳優として、そんな演出家と向き合っている。そのはずなんですが、実はそういう演出家って稀有なんですよ。演出家の椅子を権利職か何かだと誤解している人がたくさんいる。これ、大事なことなので、書いてくださいね。書かないと意味がないから。
――わかりました。
鈴木 さち子さんは演出家として自分の責任を全うするんです。責任を全うするから、人と渡り合っていける。現場にいる人間が石丸さち子だからこそ何かが生まれてくる瞬間を、僕は稽古場で何度も見ています。それは愛だったり、熱量だったり、情熱だったり。そこが一番圧倒的な魅力です。『翼の創世記』は、この音楽を書いた人だから会いたい、この音楽だから歌いたい、この言葉を書いた演出家だから一緒にやりたい、という願いをかなえてくれる現場なので、すごく幸せだなと思います。覚えられればの話ですが。
工藤・DION (笑)
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