(取材・文/小野寺亜紀、撮影/野田正明)
『オズの魔法使い』の「善い魔女」「悪い魔女」は、なぜそう呼ばれるようになったのか――。
『オズの魔法使い』の前日譚を描いたグレゴリー・マグワイアの小説(1995年出版)を原作に、『ノートルダムの鐘』の作詞などを手掛けたベテランの、スティーヴン・シュワルツが作詞・作曲を担当した『ウィキッド』。ドロシーが出会った「善い魔女」「悪い魔女」は、なぜそう呼ばれるようになったのか――。謎を解き明かすように展開していく物語が骨太で、それぞれのキャラクターが繊細に描かれ、幅広い年代に訴える奥深さがある。
舞台は、人と動物がともに暮らすオズの国。生まれつき緑色の肌と不思議な魔法の力をもつエルファバ、美しいブロンドヘアの人気者で魔法の才能には恵まれていないグリンダ。見た目も性格も正反対の二人が大学のルームメイトになり、ケンカばかりしていたところから、次第にかけがえのない親友になっていく。
その過程には、転校生フィエロをお互い愛してしまう葛藤や、オズの国に迫る陰謀に気づいて立ち上がる勇気、自身のコンプレックスを克服していく強い意志など、二人の様々な変化と成長がある。人気者になるための秘訣をグリンダが軽妙に歌う「ポピュラー」、エルファバの孤独と強さがあぶりだされる「闇に生きる」など、感情が一音一音に刻まれているような珠玉のナンバーが次々に登場。
その最たるものが、エルファバの「自由を求めて」。高音がどこまでも伸び、信じられないようなパワーを放つ歌声は、まさに空高く舞い上がるエルファバに、自分も空へとつれていってもらうような興奮が! エルファバを見ているとこちらまで不思議な力がみなぎり、勇気をもらえる。
今回の大阪公演でグリンダデビューを果たした山本紗衣さんは、美しいソプラノで魅了しながら、みんなの憧れの的であるグリンダの光の部分と、真実を知るからこその陰影を芝居心豊かに表現。2009年から本作に出演している江畑晶慧さんのエルファバは、安定感に満ちた歌声に加え、権力に屈しない信念や相手を思いやる優しさが、全身から伝わってくる。二人が声を重ねる「あなたを忘れない」はやはり感動的。親友に限らず、家族や恋人、すべての人に向けての普遍的なナンバーだと、その美しさを実感する。
また、熱い思いをみなぎらせるシーンでは赤に変化するなど、それぞれの心の揺れを表すような照明の濃淡。キャラクターの成長まで意識した一着一着異なるデザインの衣裳。緑色に染まるエメラルドシティーでの心浮き立つ華やかな演出。そしてプロセニアムアーチに翼を広げる巨大なドラゴン時計といった、精巧でファンタジックなセットが、「オズの国」への没入感を大きいものにしている。
エルファバが慕うヤギのディラモンド教授は、次第に国から迫害されていく。動物たちの言葉や権利を奪う首謀者はいったい誰なのか。エルファバの妹で、足が不自由なネッサローズは幸せをつかめるのか。様々な人間模様が交錯し、『オズの魔法使い』の世界も絶妙に交わるなか、エルファバは自ら「悔やまない」道を選択していく。「邪悪な=ウィキッド」存在と思われているもの、その本質を見極める目――。普段見失いがちなことを多面的に示唆してくれるこのミュージカルは、後味が爽快なことも特筆すべき点。やはり最強ミュージカルの一本だ。
出演者コメント
グリンダ役:山本紗衣(やまもと さえ)さん
グリンダは、キュートで明るい人気者。その彼女がエルファバというかけがえのない友人と出会い、大きく成長していきます。劇中では、こうした二人の少女の友情が描かれていく一方で、オズの魔法の世界を存分に感じさせてくれる煌びやかな場面や、物事の善悪とは何かと問いかけられるような場面もあり、多面的な魅力に溢れています。作品の感動をしっかりお届けできるよう、精一杯演じたいと思います。
エルファバ役:江畑晶慧(えばた まさえ)さん
生来の緑の肌というコンプレックスを抱えたエルファバは、愛されることを知らずに生きてきた孤独な少女です。そんな彼女が、グリンダやフィエロという存在に出会い、本当の友情と愛を学んでいきます。困難に立ち向かいながら、決断をしていく彼女の生き様は、きっと観る方の心を打つはずです。難しい役どころですが、稽古で積み上げてきた成果を皆様にお見せ出来るよう、全身全霊で役に取り組みたいと思います。
劇団四季ミュージカル『ウィキッド』大阪公演
2024年8月15日(木)~2025年7月6日(日)千秋楽 大阪四季劇場
※2025月3月30日(日)公演分まで発売中
SHIKI ON LINE TICKET http://489444.com
公式HP https://www.shiki.jp/applause/wicked/