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Stage INTERVIEW

佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』ヨーロッパツアーでの大成功を受け、暗闇から光を探すヨナを熱演する凱旋公演

2025年5月~6月にかけてヨーロッパの6都市11公演で喝采を浴びた佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』が、今秋、東京芸術劇場 シアターウエストを皮切りに全国ツアーにて上演されます。ルーマニアの国民的詩人マリン・ソレスクの代表作で、旧約聖書の聖人ヨナの逸話を題材とする本作。演出を手がけるのは、佐々木とは3度目のタッグとなるルーマニアを代表する演出家、鬼才プルカレーテ氏です。凱旋公演となる日本での上演を前に、ヨーロッパ公演での手応えや作品の楽しみ方についてうかがいました。
[取材・文/栗原晶子 撮影/増田 慶 スタイリスト/勝見宜人(Koa Hole inc.) ヘアメイク/晋一朗(IKEDAYA TOKYO)]

演出のプルカレーテ氏は、僕らを想像もつかないところに導いてくれる

―― ひとり芝居『ヨナ-Jonah』上演のきっかけをお聞かせください。

海外の劇場やフェスティバルとの交流がある東京芸術劇場から、これまで『リチャード三世』(17)、『守銭奴』(22)で演出を受けていたプルカレーテさんと一緒に作るというお話を受け、作品選びを始めました。ちょうどコロナ禍の時期だったのであまり大きなカンパニーで作るのは難しい、できるだけ少人数でという話からひとり芝居になりました。さまざまな日本の戯曲、ヨーロッパの戯曲を探すなかで『ヨナ-Jonah』という作品が候補にあがり、ひとり芝居なのだからこちらから僕が単身でルーマニアに行けばいいのではないかという話になったんです。舞台では『マクベス』を一人で演じたことがあったので、イメージはできました。でもあの頃よりも体力も知力も落ちてますからね、どうかなと思いながらもプルカレーテさんをはじめとする、美術のドラゴッシュさん、音楽のヴァシルさんたちと一緒ならやれそうな気がしたんです。

―― 『ヨナ-Jonah』は、ルーマニアでは教科書に掲載されているような皆が知っている作品とのこと。演じる上での不安はありましたか。

ルーマニア語から英語訳、英語から日本語訳したものと、ルーマニア語から日本語訳したものと2つの台本を読みながら作っていくのはやっぱり難しかった。でも、この作品はルーマニア人が読んでも難しいんだと聞いて、そもそも簡単にわかるもの、ロジカルなものではないんだなと。プルカレーテさんに委ねればいける気が直感的にしていましたし、ドリアン助川さんが翻訳・修辞を手がけてくださって光が見えました。

―― 3度目のタッグとなる演出家 プルカレーテ氏の印象をお聞かせください。

8年前、『リチャード三世』の上演が決まり、プルカレーテさんとの打ち合わせのためにルーマニアのシビウ国際演劇祭を訪れました。「リチャード三世っていうのは、本当は男前でスマートな人間なんだ。よくイメージされている醜態、あれは演じていただけなんだ」と言われたことを憶えています。いきなり困ったぞと思いましたね。そうこうしながら、現地で上演された彼が演出した『ファウスト』を観たら、火は使うし、血みどろだし、フライングもある。『メタモルフォーゼ』も、水をバシャバシャ使うし、これはもう腹を決めなきゃいけないなと思ったんです。
実際に稽古場では僕らが考えていった想像の斜め上をはるかに越えるようなポカンとするような演出をされて、食らいついていくのが精いっぱいでした。そうして出来上がった作品は本当に魔法のようでした。プルカレーテさん率いるチームは僕らを想像もつかないところに導いてくれるんです。

―― プルカレーテ氏の人間的な魅力の部分も気になります。

演出家って大抵は、こんな風にやりたいということを僕ら役者に求めてくるものだと思うんです。でもプルカレーテさんは、こうして欲しいではなく、状況を言って、待ってくれる。待った上でそうじゃないならば違う提案をしてくれる。その臨機応変さが最大の魅力ですし、役者を信用してくれているんだなと思います。

―― 稽古期間で印象に残っているエピソードはありますか。

3時間の稽古のうち、半分は通訳が入るので実質稽古は1時間半。その間にオペレーションが入るんです。文字通り「手術」ですよね。彼はよく「さあ、オペをするぞ」と言って、この部分を切って、あっちに持っていったり、これを3分割してバラバラに入れ替えたりという具合に戯曲にメスを入れていくんです。そこまで戯曲をオペレーションする演出家は僕が経験した中ではプルカレーテさんだけです。戯曲で言いたいテイストは保ちつつ、彼なりの見方、切り取り方、表現の仕方をするのが一番の魅力です。そこまで大胆だからこそ僕たち役者は驚き、観客も驚き、魅了されるのだと思います。

―― ヨーロッパツアーで『ヨナ-Jonah』を上演された際の現地の様子はいかがでしたか?

シビウのラドゥ・スタンカ国立劇場がホームでした。一か月近く毎日通い、稽古をしていた馴染みの場所に本番はそのまま約350人のお客様が入りました。その後、都市が変われば劇場のサイズもいろいろ。150席から1000席まで、状況はどんどん変わっていきます。出たとこ勝負で上演していく面白さがあって、いい意味で鍛えられました。

―― 知名度が高い作品に対しての観客の反応も気になります。

ルーマニアの皆さんも、「この戯曲がこんな風に演出されるのか」と驚かれていました。皆が知っている戯曲だからこそ、こういう解釈、こういう切り口をしますよと提案された気がしたと思うんです。ここの字幕とこの僕の動きで笑うんだ…みたいな新鮮な驚きもありました。

―― 日本では感じられないような反応だったということでしょうか。

そうですね。「それはヨナじゃない」と言われる可能性もなきにしもあらずだったので怖さはありました。でもこれが日本的なアプローチっていう風に解釈してくださったのかな、どの劇場でも、皆さんがスタンディングオベーションしてくださった時はすごく嬉しかったです。
これは逆の立場で考えると、例えば宮沢賢治の作品を日本で上演するのに、ルーマニア人が単身で乗り込んで、日本で稽古して一人でモノローグを80分上演してくれたとしたら、それはやっぱりありがたい。ああ、自分たちの国の作品をこんな風にやってくれたんだ、という思いになるんじゃないかなと思って。そんな風に僕も受け入れてもらえたようで、印象的だったのは、フェスティバルが開催されたシビウで町を歩いていると「あ、ヨナだね」と声をかけられたことでした。僕という日本人に対して、フィルターなどまるでなくて、「ヨナ」として見てくれたというのがとても面白く、新鮮な体験でした。

―― いよいよ日本での凱旋公演となりますが、観劇の心構えみたいなものがあれば教えてください。

旧約聖書の預言者ヨナの逸話が題材ですが、作品を作るにあたって僕は一人の漁師が魚に飲み込まれ、そこから出ようとする話として読みました。最初にプルカレーテさんに伝えたところ、「それでいい、それで十分なんだ」と言ってもらったんです。日本でも「ピノキオ」の話は寓話として知っている方が多いと思います。詩的なところがありますから、そう簡単に理解できるものではないかもしれませんが、言葉と言葉が関連性を持ち、広がっていく作品なんだろうと思います。字幕でご覧いただいたルーマニアに比べ、日本では言葉が届きやすいという点でお客様の反応が楽しみです。
それと、ルーマニアでの作品作りは、いい意味で手作り感がとてもいいなと思ったんです。紙の質のちょっとした違和感が楽しかった。そんなルーマニアの肌触り、手触りみたいなものを感じていただけるといいなと思っています。

―― 作品の中でヨナは巨大な魚の腹の中にいて、外に出られず絶望や恐怖を感じます。そんなヨナのように、もし絶望的な極限状態に置かれた時、佐々木さんはどう行動するタイプですか?

寝るかな。今回、ヨーロッパツアーでルーマニアに滞在する上で信条としていたのは早く寝る、何があっても睡眠をとるということでした。ひとり芝居なのでもし自分に何かあったら大変なことになるっていうプレッシャーがありましたから。普段からそうかはわかりませんが、『ヨナ-Jonah』に関わっている間は、すべてポジティブに考えて、陽気に過ごそうと思ってました。極限状態に置かれたら、笑って過ごす…ですね。

―― 日本での上演に向け、お客様にメッセージをお願いします。

『ヨナ-Jonah』のセリフは、一語一語が詩的なので、その言葉で自分が膨らんでいく感覚を感じていただきたいですね。自分がかつて見た景色や香りを思い出せる作品になるかもしれないと思います。大切な人を思い、大切な思い出を改めて感じにきてほしいですし、お一人はもちろん、ぜひ、ご家族やお友達など、連れ立って観に来ていただけると嬉しいです。

東京芸術劇場×ルーマニア/ラドゥ・スタンカ国立劇場 国際共同製作
佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』

東京公演/2025年10月1日(水)~10月13日(月・祝) 東京芸術劇場 シアヌーウエスト
金沢公演/2025年10月18日(土) 北國新聞赤羽ホール
松本公演/2025年10月25日(土)~10月26日(日)  松本市民芸術館 小ホール
水戸公演/2025年11月1日(土)~11月2日(日) 水戸芸術館ACM劇場
山口公演/2025年11月8日(土)~11月9日(日) 山口情報芸術センタースタジオA
大阪公演/2025年11月22日(土)~11月24日(月・休) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

原作:マリン・ソレスク
翻訳・修辞:ドリアン助川
演出:シルヴィウ・プルカレーテ
舞台美術・照明・衣裳:ドラゴッシュ・ブハジャール
音楽:ヴァシル・シリー
出演:佐々木蔵之介

 佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』公式HP

佐々木蔵之介ファンサイト「TRANSIT」
https://sasaki-kuranosuke.com

フォトブック「光へと向かう道~『ヨナ』が教えてくれたルーマニア~」
ANCHOR SHOPにて販売受付中・各公演劇場にて発売予定
https://shop.anchor-mg.com

 

★近日発売★「エンタプレスタブロイド版」でも佐々木蔵之介さんのお写真を掲載予定!お楽しみに! 

 

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