故・蜷川幸雄も語っていた「一本一本の積み重ね」
――ルーツというお話が出たので、ぜひ藤田さんのルーツも伺いたいのですが。
僕のルーツはやはり、生まれ育った秋田にあります。初めて観た舞台は『ピーターパン』ですが、幼少の頃は演劇に接する機会はほとんどなく、写真家もしくは映画監督になりたくて、写真を撮ったり、短い自主映画を作ったりしていました。ですが高校へ行くことができなくなり、中退して秋田の本屋でアルバイトをしながら、本好きを活かして出版に関わる仕事もいいなと思っていました。自分は写真や映画の才能はないだろうと感じていたけど、夢を追わないまま終わるのは良くないと思い、親に「大学に行かせてください」とお願いして、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科へ進みました。そこは映画や写真、身体表現などあらゆるジャンルを網羅していて、建築やアートのことまで幅広く勉強しました。その中で僕が一番心に引っかかったのが、みんなが「プリミティブ」と呼んでいた身体表現、演劇でした。
――先端芸術を学ぶなかで、そこに行きついたと!
映像のコラボレーションなど色々なジャンルがある中で、人間が演じるという意味でプリミティブな“演劇”に(笑)。僕のもう一人の恩師である、演劇評論家の長谷部浩先生のゼミに入ったんです。そこで蜷川幸雄さんの特別授業があり、蜷川さんとの対話に直接触れ、すごく面白いなと思い、蜷川さんの芝居を観るようになりました。今まで写真や映画など“切り取る”ことにリアリティを求めていた僕にとって、生で演じる演劇は真逆で、非常に惹かれたんです。
――新たな表現との刺激的な出会いだったのですね。
舞台は一過性だけど、演劇を観るという体験は消えるようで消えてなくならない。そう感じたとき、この世界で生きてみたいと強く思いました。役者をやったことはなかったけど、人はときに精神と感覚がジャンプするんですよね(笑)。蜷川さんが主宰するニナガワ・スタジオの俳優オーディションを受けたんです。そこでなぜ受かったのか……! 理由はひとつ、僕が芸大生だったからです。蜷川さんは油絵のほうで芸大の受験にパスできなかったそうです。それで「芸大生、入れてやるか」という気持ちになったそうです。後に尋ねたら「それ以外に採った理由はない」と言われました(笑)。
――そうなのですね(笑)。では蜷川さん演出の舞台にも立たれたのですか?
はい、なんとこのシアター・ドラマシティ(取材場所)にも立ったことがあるんですよ! 『ロミオとジュリエット』(2005年)の舞台で、乳母の従者のピーターという役で。奇跡のような日々でした。
――その舞台、観ています! いきなり役付きとはすごいですね。最終的に俳優の道へ進まれなかったのはなぜですか?
『ロミオとジュリエット』で周りのレベルがあまりに高すぎて、舞台上で素になっちゃったんですよ。あぁ、これは無理だと感じた瞬間、俳優をやり続ける自分はないなと思いました。それで蜷川さんに相談する中で、演出助手をやらせていただけませんか、とお願いし、受け入れてくださいました。
――そこから10年間、ニナガワ・スタジオで演出助手を続けられたのですね。
はい、ドラマシティにもたくさん思い出があり、蜷川さんと近くの焼肉屋さんやお寿司屋さんに行ったこと、演出助手として全国公演の幕を開けるのを任せてもらったこと、色々あります。
――蜷川さんは生涯現役を貫かれるご活躍でした。藤田さんは来年45歳で、すでに読売演劇大賞や菊田一夫演劇賞など多数の賞を受賞されています。ご自身のキャリアや今後について、どのようにお考えですか?
僕なんてまだまだです。賞を頂けるのは大変嬉しいですが、次の作品への挑戦権を頂いたというふうに思っているので、演出できるチャンスに感謝し、一本一本積み上げていくしかないと感じています。蜷川さんも「一本一本の積み重ねだ」とおっしゃっていました。
――蜷川さんは一本一本にすごいエネルギーを注がれていましたね。
はい、だからこそ全国の公演、世界の劇場でも幕開きにはいらっしゃいましたし、それぐらいの思いを作品に懸けているのを感じていました。やはりお客様に喜んでいただける作品を作り続けることが、生涯現役でいられるかどうかの鍵になると思います。
――藤田さんもご自身が手掛ける公演のツアーに、ずっとついていかれるとお聞きしました。
今のところ自分が演出を担った作品は、ありがたいことに全国公演でもほぼ皆勤しています(笑)。そして劇場ロビーにおります! これはコロナ禍以降、(キャストの)面会ができないので、せめて僕に何かできることはないかという思いで開場時、ロビーに立っています。これからもカンパニーやお客様と対話を繰り返し、誠心誠意努力して、皆様の心に残る仕事をしていきたいです。
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絢爛豪華 祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』
東京公演/2024年12月9日(月)~12月29日(日) 日生劇場
大阪公演/2025年1月5日(日)~1月7日(火) 梅田芸術劇場メインホール
福岡公演/2025年1月11日(土)~1月13日(月・祝) 博多座
富山公演/2025年1月18日(土)~1月19日(日) オーバード・ホール 大ホール
愛知公演/2025年1月25日(土)~1月26日(日) 愛知県芸術劇場大ホール
作:井上ひさし
音楽:宮川彬良
演出:藤田俊太郎
出演:浦井健治 大貫勇輔 唯月ふうか 土井ケイト 阿部裕 玉置孝匡
瀬奈じゅん 中村梅雀
章平 猪野広樹 綾凰華 福田えり
梅沢昌代 木場勝己 ほか