3人のポージングから見えた、それぞれの情熱
葛飾北斎の人生を、ダンス、演劇、音楽で描く『PASSION ― 北斎の描く夢 ―』。北斎役を務めるのは大貫勇輔、北斎の情熱や理想を表現するのは柚希礼音、そして北斎の内面を担うのがKELO。北斎という一人の芸術家を軸に集まったジャンルもキャリアも異なる3人。写真撮影のためポーズを決めてもらうと、これが面白い。柚希と大貫が2人でポーズを決めているところに、KELOがすっと入ってくる。3人の絶妙なバランスにある関係性が垣間見えた。
――みなさんの現在の関係性について教えてください。
柚希 私とぬっきーさん(大貫)は一緒にふたりで踊ったことがあるんですけど、ジャンルは違っても、そのときに歩み寄らせてもらったんです。だから、ぬっきーさんはこういう表現をされるんだなって、ちょっとだけ分かる。でもKELOさんが果てしなく分からなすぎて。
KELO 果てしなく…怖いですね。
柚希 いやー、それが面白かったです(笑)。
大貫 チラシ撮影のときにKAORIaliveさんがディレクションしてくださっていたんですが、そうするとキュッて、一瞬にしてまとまるんですよ。3人とも対応力が高いですし、違うからこそ、撮影が本当に面白くて。ちえさん(柚希)とはどこか戦っているような感覚があるんですよ。「私はこう行くけど、あなたはどうやるの?」「俺はじゃあこうやるけど、どうやるの?」みたいな会話をしている感じがする。KELOさんはKELOさんで、自分の行き方がある。今は「3人のこのバランス感、すごいな」って思っています。
――北斎を題材に、ダンス、演劇、音楽を融合させる企画を聞いた時、どんなことを感じましたか?
大貫 北斎という人物をダンス、演劇、音楽で描くと聞いて、今までにないものになるんじゃないかなと思いました。そこに柚希さんとKELOさんがいる。このふたりと一緒にやったら面白いだろうなって。
葛飾北斎の人生って、知れば知るほど本当に奇想天外なんですよね。名前をたくさん変えていたり、あれだけ有名な『富嶽三十六景』が晩年の作品だったり、最後には目もほとんど見えなくなって、娘に支えられながら絵を描いていた。本当に絵に生きた人物だったんだなと思うんです。そんな人を自分が演じることができる。その喜びと興奮と感謝を、最初に感じました。
柚希 私もダンスやパフォーマンスで表現するというのが本当に嬉しいなと思いました。普段ミュージカルなどの出演が多いので、踊りで表現する場をいただけることが嬉しい。
このおふたりと一緒にできるというのも、どんな化学反応が生まれるのか楽しみですし、お稽古しながら刺激を受けて、どんどん高みを目指していけるんじゃないかなと思っています。
北斎を調べていたら、死ぬまで高みを目指して、「あと5年、天が命をくれたら、本当の絵師になれたのに」と言いながら亡くなったと知って。いつまでも自分を「もうOK」としないまま、ずっとずっと描き続けたから『富嶽三十六景』などの傑作が生まれた。でも、まだまだ自分は……と言いながら描き続けて、逝かれた。私たち、ずっと芸事をやっている人間にも、すごく通じるものがあるなと思っています。
私はその彼の情熱の部分を演じるので、北斎の情熱というものをいろいろ研究しながら、それを体で表現していくのを楽しみにしています。
KELO 僕は普段、ダンスのみのステージが多い世界にいるんですけど、演技も加わって、という舞台が本当に人生で初めてなので、非常に楽しみです。
勉強させてもらいながら、自分もこの作品に何かいいものを与えられたらいいなと思って、本気で取り組みたいと思っています。

違うジャンルだからこそ、負けたくない
――それぞれのジャンルで第一線を走ってきた3人ですが、違うジャンルのトップと一緒に作品をつくることについては?
柚希 私はやっぱり、このふたりと一緒にやれることが嬉しいです。ぬっきーさんとは一緒に踊ったことがあるから、ある程度は分かる部分もある。でもKELOさんみたいなストリートの踊りの方に、普段本当に出会わないから。インスタを拝見して、一緒にできるのは嬉しいけど、一緒に踊れる気はしないというくらい、今はビビってます(笑)。
大貫・KELO (笑)。
柚希 でも、だからこそ面白いんですよね。同じところで勝負するんじゃなくて、それぞれが自分の得意な場所を持っている。私は私で、このふたりに負けたくない。
大貫 ちえさんは宝塚でトップスターまでやってきて、KELOさんもD.LEAGUEでずっとやってきている。だから、変に合わせようとしなくてもいいと思うんですよね。僕はちえさんとは会話する感じだし、KELOさんはKELOさんで、自分の行き方がある。その3人が一緒になった時に、どうなるのか。そこが面白いんじゃないかなと思っています。
KELO 僕は逆に、ふたりができることを自分はできないので、そこはすごく勉強したいです。でも、自分にしかできないこともあると思う。だから、ただ合わせるんじゃなくて、自分の視点から「こうしたら面白いんじゃないか」というものも出していきたい。ふたりが考えつかないようなものを、自分がスパイスとして入れられたらいいなと思っています。それぞれが自分の世界でやってきたものを持ち寄って、そこから新しいものを作る。そこは本当に楽しみです。
北斎は「すごい絵師」だけじゃない
――葛飾北斎に対して、もともと持っていたイメージは?
大貫 北斎といわれて一番最初に浮かぶのは、波と富士山です。以前、葛飾北斎展に行ったんですが、本当に「一体何枚絵を描いたんだろう」というくらい、とんでもない量の絵を描いているんですよね。江戸の街並みだったり、江戸で生きる人たちのちょっとした仕草だったり。そういう絵がバーッとたくさんあって。本当に、生きることが描くことで、描くことが生きることだったんだなって。生活と描くことが分離していないというか、ずっと描いていたような人生だったんだろうなと思いました。
僕自身も10代の頃に、本当にダンスに夢中になった時期があって。その時期は電車に乗っている時にも、足を一番のポーズにしてずっとターンアウトしていたり、ずっとルルベして電車に乗っていたり。道を歩きながら、人を避ける時も「どういうふうに避けるか」って考えながら実践して歩いていた(笑)。生きることと踊りがずっと一緒だった時期が僕にはあった。変質者になっちゃうから、今はなかなかしてないですけど。
柚希 変質者!?
大貫 (笑)でも、それくらい変態な時期が僕にもあったんですよね。だから、彼の気持ちにすごシンパシーを感じるところがあって。そのリンクする部分を表現できたらいいなと思っています。
柚希 私も北斎といえば、世界中の方が知っている絵があって、「すごい絵師なんだ」と思っていました。でも調べれば調べるほど、そんなすごい人とは思えないような苦労をして、葛藤して、たくさん挫折もして…。それで浮世絵から始めたのに、「やっぱりこれではライバルが多すぎる」と違う分野へ行ってみたり、さまざまことを試して風景画に行ってみたり。風景画へ行ったら行ったで自ら海に入って波を描いてみたり。いろいろなことをして傑作を生み出したんだなと思うと感動します。あの素晴らしい作品が簡単にできたものではないというところが、ますます感動する。
それでも満足しなかったというところにも、グッと来るものがあります。有名な絵師なんだと思っていた時よりも、より身近に感じる。人間味にあふれる人なんだなと思うと、彼の「情熱」を演じることがものすごく嬉しくなっています。
KELO 僕にとって北斎は、日本を代表する芸術家というイメージが強いです。その中でも、最後まで自分の表現を追求していたところがすごいなと思っています。自分も最後の最後まで、ずっと磨き続けるという気持ちを持っていたい。毎日のお稽古でも、本番でも、もっと良くできるんじゃないかという気持ちを持ち続けていきたいです。

踊り始めた理由も、三者三様、それぞれ違う
――皆さんがダンスを始めたきっかけは?
大貫 母親がダンススタジオをやっているんですが、いろいろなところで教えていて、僕は幼いころから車に乗ってついて回っていたんです。
ある日の帰り道、海沿いを走っている時に海を見ていたら、突然「明日からやろう」と思って。大げさに言うと、海から語りかけられたみたいに突然。
それまではただレッスンを見ているだけだったんですけど、「僕も明日からやる!」って後部座席で決めたんです。7歳の時でした。
そこからダンスを始めたんですけど、中学に入ったころから、自分の中で言葉にならない感情だったり、言葉みたいなものが渦巻いてきた時に、踊りがそれをすごく浄化してくれたというか、消化してくれた。僕は本当にダンスに救われたなと思っています。ダンスがなかったら、きっと今の僕はなかっただろうなって。
柚希 私は子どものころ、一つの習い事を一カ月も続けられないぐらい、すぐ辞めてしまう性格だったんですよ。ピアノも練習しないし辞めるし、何でもかんでも辞める人だった。
でも、隣の家の子がバレエをやっていて、「私もやってみたい!」と言ったら、「あなたはすぐ辞めるから1年待ちなさい」と言われて。1年待ってもやりたかったので、9歳の時にやっとバレエを習えたんです。
「やりたい、やりたい、やりたい」が積もって始めることができたのもあって、バレエだけは初めて続いたし、ものすごく好きだった。「私はバレリーナになるんだ」と思っていました。
でも、あまりにも背が伸びて、どんどん大きくなって、パートナーとして組む男性がいなくなってきて。海外へも目を向けていたんですけど、それでもやっぱりバレリーナとしてはどうなんだろうということで、家族会議が行われまして、そこで「宝塚受けなさい」と。「えー、宝塚? バレリーナじゃなくて?」と思いながら、受験しました。それまで宝塚を見たこともなかったんですよ!
KELO 見たこともなかった…。
柚希 はい、そうなんです。でも宝塚に入ってみたら、肩幅も大きいし、手の大きさも何もかもが活きた。バレリーナになりたかったけど、バレエをやってるときはすごく身を縮めていた。それが、男役というものに出会えたことで、全部が活きたんです。
宝塚で、私はバレエだけが好きなんじゃなくて、踊ることが好きだったんだと知りました。タップも日本舞踊もモダンダンスもいろいろ学べたし、踊りもただテクニックじゃなくて心の表現をするんだということを学びました。芝居や歌を学ぶことにで、踊りの表現にも磨きがかかったように思います。
だから今、この『PASSION』で表現できるのは、お芝居をしてきたからこそだなと思います。テクニックやラインを綺麗にすることだけを意識していた頃の自分のダンスとは違う、本当に内面の表現をこのメンバーでできることが幸せです。
それに、ダンスをずっと続けてこれたのは、なかなかゴールが出ないから。それが北斎さんとも通じるものがあって。いつまでも「これでできた!OK!」と思えないから最高だし、だからずっと続けているんだと思います。
KELO 僕は中学2年生ぐらいの時に、学校でいろいろあって不登校になった時期があったんです。その時期にゲームをやったり、ずっとお菓子を食べたりしていたんですけど、兄貴がもともとダンス部にいて。
ダンス部で貸し借りしていた1本のビデオテープがあって、そのビデオのダンスを見て、自分もやりたいと思った。それから、とりあえず家の中でひたすらモノマネして、ダンスを始めて、気づいたら今ここにいる感じです(笑)。
当時はダンサーになろうとか、ダンサーとして食っていくという志もなく、ただひたすら毎日、無我夢中に踊っていた。それが初期衝動だったんだと思います。
その時の自分は情熱と思ってやっていたわけじゃないけど、周りが見えなくなるくらい熱中する情熱が、今ここまで連れてきてくれたんじゃないかなと思います。
――それぞれの役割を、今の段階ではどう捉えていますか?
大貫 僕は始まりはダンサーだったんですけど、今はこうやっていろんなお芝居をやらせていただいている。その培った経験をダンスとフィットさせていく作業って、今こそなんじゃないかなってすごく思っています。本当に「踊り続けててよかったな」「芝居に挑み続けててよかったな」と思えるタイミングに、この作品に出会えた。
今まで誰もやってこなかったようなものを、葛飾北斎を通して、自分の今までの全人生をかけて作り上げたい。ダンサーにはできない、俳優にはできない、新しい何か混ざったものをやりたい。今までやってきたことを全部使って、そこに挑みたいと思っています。
柚希 北斎って、掃除はしない。家が汚くなったら、もう汚すぎるから引っ越す(笑)。すべての意識が絵に集中していて、ただ絵を描いて、描いて、描いて…。どこまでも満足できない情熱のかたまりなんです。彼の大きな情熱と理想を表現するのが役割だから、どう表現するか、お稽古をしながら探していきたいです。
KELO 僕自身の役割は、結構抽象的というか、北斎の内面というか、そういうちょっとおどろおどろしいイメージを表現すること。稽古を重ねていくうちに、どういう存在なのか、今ここで何が欲しいのかを、演出家や皆さんと話し合って、どんどん具現化していくと思います。
今現在、自分の中で「これを絶対表現したい」というものはなくて、日々稽古していく中で、ライブのように形成されていくものだなと感じています。ある程度、北斎の実人生をしっかり情報として入れつつ、自分のダンス感というか世界観を入れつつ、全く新しいものを生み出したいです
「ちえさんとは、一緒にバレエのレッスンへ」
大貫 ちえさんとは一回、一緒にバレエのレッスンに行ったことあるじゃないですか。
柚希 はい、覚えてます。
大貫 その時に、「この人、宝塚のトップスターじゃなくて、バレエをやり続けてたら、きっと世界を代表するダンサーになってたんだろうな」って思うくらい、スンゴかったんですよ!
柚希 いや、そんなそんな。
KELO へぇ、すごい。
大貫 ジャンプ飛んだらカモシカのようにピャーってなるし、足長いし、手長いし。しかも、その時はバレエのレッスンをそこまでやってなくて、久しぶりにやるって言ってたのに、あのクオリティ!「うわ、この人、本当にすごいダンサーなんだな」って、その時に知って。
柚希 えーーー!
大貫 もちろん、そこだけじゃないんです。僕はやっぱり、宝塚のトップに立っている人たちの根性って、とんでもないと思うんですよ。週8、9で、それをシングルキャストでずーっとやり続ける。お芝居していたと思ったら、高い階段から降りて、大きな羽根を背負って、女性をリフトして。ものすごいことをずっとやり続けている。僕、自分が演劇をやればやるほど、宝塚のすごさを常々思うんです。だから、ものすごく尊敬しています。
柚希 ありがとうございます(照)。
大貫 そしてKELOさんに対しては、D.LEAGUEの中で本当に僕が尊敬するダンサーの一人です。今回ご一緒できるというのが、ものすごく嬉しい。まさかの同い年なんですよね。
KELO そうなんですよ。
大貫 それも僕、びっくりしちゃって。動きがとんでもないし、キレがすごいから、もっと若いと思ってたら、まさかの同い年だった!そういうシンパシーも感じながら、やっぱりKELOさんが発するものって、ストリートの枠にも留まらない。オリジナリティにあふれたスタイルが本当にすごいと思います。それを共にクリエイションできる喜び! 一体何が出てくるのか、本当に楽しみで仕方がないです。
KELO 僕に関しては、もうできないことだらけをできるお二方なので。そこはもちろん、自分がいろいろ学ばせてもらって。自分だったら、それをこうするかもな、みたいな動きの提案とか。ふたりからは発想できないものの、スパイスみたいなものを表現できたらいいなとは思っています。この稽古中は、本当にいっぱい吸収して、成長につなげたいです。
もっともパッションがあるのは?
――では、この3人の中で、一番パッションがあるのは誰だと思いますか?
柚希 パッションの方向性が違いますよね。
大貫 僕は、自分が変わることだったり、誰かの心に変化を起こすこと。
柚希 私は、もっとこうなれる、もっと良くなるっていうところ。
KELO 僕は、今まで行ったことのない場所で、自分がどうなるか。
柚希 だから、私はこのふたりに負けたくない。でも、同じ場所で戦ってないんですよね。3人とも、同じパッションでも方向が違う。
大貫 そうですね。
KELO うん、そう思います。
柚希 だから、誰が一番って決めるのは難しいですね。私は私で、もっともっと先へ行きたい。
KELO 僕は、踊ることも、歌うことも、芝居をすることも、全部つながっていると思っています。今回、新しいことを始めるという感覚ではないんです。この世界で自分がどこまでいけるのか。そこに挑戦している感じです。まだ出会っていない自分に出会いたいと思います。
大貫 僕らの三者三様のパッション、その化学変化を楽しみにしていてください。
ダンスエンターテイメント演劇『PASSION ― 北斎の描く夢 ―』

2026年10月22日(木)~11月3日(火祝) 横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール
2026年11月7日(土)~8日(日) サンケイホール ブリーゼ
脚本/藤井清美
音楽/森 大輔
振付・演出/KAORIalive
共同演出/元吉庸泰
出演/大貫勇輔 柚希礼音 KELO 他
https://horipro-stage.jp/stage/passion2026/
