「今だからこそ」オーディションにチャレンジ
――まず『キンキーブーツ』に挑もうと思われた理由から教えてください。
東啓介(以下、東):いつか出演したい作品で常にアンテナを張っていたところ、オーディションのお話を頂いたので、このチャンスをつかみたい!と思いました。やはり前々からやってみたいと思っていたのが、挑戦した大きな理由です。
松下優也(以下、松下):自分が出演するとは夢にも思っていない作品でしたが、ローラ役のオーディションのお話がきたとき、まずこのような有名な作品に声をかけていただいたことが嬉しかったです。ミュージカルのお仕事をやってきたことが評価してもらえているんだなと。
でもオーディションを受けるまで少し悩む期間がありました。やはり世界的に愛されていて、日本でもすごくファンの多い、素晴らしい作品だと知っていたからこそ、中途半端な気持ちではできないなと思って。ただ、オーディションを受けると決めたときには覚悟をもち、絶対に受かるつもりで挑みました。
――ご自身のキャリアの中で、「今だからこそ」という部分もありましたか?
松下:俺は完全に「今だからこそ」です。色々な経験をしてきた今、できる役かなと思うからドンピシャですね。
東:僕も「今だからこそ」だと思います。作品との出会いは自分で決められないし、巡り合わせもあるけど、今回大きなチャンスを頂いたと思うので、よりレベルアップした姿をお見せしたいです。
――オーディションで印象深かったこと、驚いたことなどがあれば教えてください。
東:チャーリーのソロ「STEP ONE」などを歌うだけでなく、お芝居もあり、その映像を(アメリカのクリエイティブスタッフに)送るという形でした。日本版演出協力の岸谷五朗さんとディスカッションをしながら、まるで稽古のような、『キンキーブーツ』の一員になったような気持ちになり楽しかったですね。お芝居は一部分だけだったので、その前後の関係やシーンの目的なども調べたりして、身になるオーディションでした。
――東さんは過去に韓国でこの舞台をご覧になられたそうですが、そのときのインパクトなどもオーディションで活かされたのでしょうか。
東:僕が舞台を観たのはだいぶ前なので、当時はすごい衝撃でしたけど、「あのとき観たものを再現しよう」というよりは、自分なりのチャーリーと言いますか、今の自分ができることを全部出す、という感じでした。
――「自分なりのチャーリー」というと?
東:僕は背が高くて、チャーリーとして迫力が出過ぎてしまうところがあるから、いかに普通の人に見えるかを意識し、新社長になってドタバタしている感じや、一生懸命さ、必死さに重きをおいて挑みました。
――松下さんはアーティストとしてもずっと活躍されているので、歌からイメージするものもたくさんあったのではないでしょうか。
松下:そうですね。ローラには芝居要素の強い歌、パフォーマンス力が求められている歌などありますが、オーディションを受ける前に、ビヨンセを参考にするのが一番いいかもしれないと思って臨みました。ビヨンセのパフォーマンスは、女性としての格好良さに加えて野生的な部分もあり、性別に囚われていない魅力を感じるので。
――お互いの役で、楽しみにされていることをお聞かせください。
東:ローラでいる部分と、サイモンでいる部分の両面を持ち合わせている役だと思うのですが、優也くんが演じるローラから、僕のチャーリーがどんな影響を受けるのか楽しみです。
松下:まず単純に、東くんをはじめ、みんなの歌を聴けるのがすごく楽しみです。パフォーマンスするのはもちろん好きだけど、自分は人が演じるのを観たり聞いたりするのがすごい好きだから、いつも稽古場が結構楽しみのひとつなんです。
東:うんうん。
松下:実力ある人たちが集まっているからね。「THE SOUL OF A MAN」もめっちゃ楽しみ! 東くんとはコンサートでの共演はあってもお芝居では初共演だし、(有澤)樟太郎も『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』ではダブルキャストだったから、一緒に芝居をしたことがないので新鮮です。
東:僕も樟太郎くんとは同じ役を演じることが続いているので、チャーリー役同士、ディスカッションしながら作り上げていくのが楽しみです。(甲斐)翔真とは初共演が映像作品だったので、舞台でどういう面を見せてくれるのか。それぞれが相乗効果になり、化学反応を起こしていきそうでワクワクしています。
――まだ稽古が始まる前ですが、東さん、松下さんのお互いの印象はいかがですか?
東:安心感があります。それこそMV(東さん・松下さん・有澤さん・甲斐さん出演、スペシャルバージョンのミュージックビデオ「NOT MY FATHER’S SON」 https://www.youtube.com/@kinkyboots_japan)の撮影が、優也くんとほぼ「初めまして」でしたが、もう打ち解けてきたというか、勝手に安心している自分がいて。僕はわりとオープンマインドなので、早く仲良くなって一緒にお芝居を積み重ねたいです。
松下:樟太郎から聞いている通り、めちゃくちゃ人懐っこい人(笑)。ご飯にも行ったし!
東:あ、そうですね!
松下:お酒飲んで楽しかったよね。年齢的にはこの4人のなかで自分が一番年上だけど、ミュージカル界においては同世代だと思っているから、全然気を遣わないでほしいです。それぞれディスカッションしながら、自分の思うことを表現していける環境であればいいなと。人間的に素敵な人たちばかりだから、そこはすごく安心しています。
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芝居のキャッチボールで大切にしていること
――『キンキーブーツ』において、ご自身の“挑戦”と思うところを教えてください。
東:知らない人物を演じるのは毎回難しいなと思うのですが、相手がいるからこそ役が形成されるところがあるので、相手の方といかに馴染めるか、ですね。それによって自分の役の性格や人間味が生まれてくると思うし、そこでにじみ出る生活感も出していけたらと思います。
松下:もう全部“挑戦”だらけなんですけど(笑)、役やパフォーマンスというよりも、最近新作が続いていたので、長年クリエイターの皆さんが創り上げてきたものに、自分が入るというのが新鮮な感覚で。
東:そうか! 逆に新鮮。
――お二人の世代だと、いちから創られる舞台が多いですよね。
東:そうですね。再演だとしても、また改めて創ることが多いので。
松下:そう。この『キンキーブーツ』は日本で4回目となるし、おそらく最近やってきた作品とはまた違うんだろうなと思います。
東:いい意味で制限されている部分もあるしね。
松下:だから……本当に焦らせないでほしい!
東:アハハハ(爆笑)。優也くんの本音が出ましたね!
松下:皆さんは何周もしているけれど、俺らは初めてなので、うろ覚えの状態のときに急かさないでいただければ(苦笑)。
東:そうですね、頭の中で整理しなきゃいけないから(笑)。
松下:急かしたい気持ちはわかるし、自分がそちら側だったら急かしたくなるだろうけど。
東:早く一回、全体像を見たいもんね!
――演出・振付のジェリー・ミッチェルさんをはじめ、『キンキーブーツ』を知り尽くされた海外クリエイターの方とのこれからの稽古、どのように進むのか楽しみですね。
東・松下:はい。
――チャーリーは老舗靴工場を営む父親の息子ですが、共感できるところはありますか?
東:僕は社長の息子ではないですし、親と比較されるという経験もないので難しいけれど、身近なところで言えば、先輩方と比べられる経験はあるので、そういうのに置き換えて考えてみたりはしますね。
――チャーリーとローラの関係性は、どのように構築していけたらと思いますか?
東:まず、優也くんと翔真で、絶対にローラ役像は変わってくると思うので、稽古でお互いが出してきたものをキャッチし一緒に積み上げていけば、いい関係性が生まれてくるのかなと思いますね。
松下:今、東くんが言ってくれたように、相手が変わると自分も変わるから、自分だけで芝居をつくるのではなく、お互い向き合って芝居をするときに芽生えるものを稽古で感じていけたら、と思います。
――それは普段から役づくりで大切にしていることなのでしょうか?
松下:そうですね。本番が始まっても、自分はそうかもしれない。昔、まだ芝居のことがよくわかっていなかったとき、「相手の目を見たらわかる」ということに気づいて。だから、相手の目を見て芝居をしよう、と思うようになりました。それは物理的な“目”ではないんです。
――目の奥、その人が感じていること、ということでしょうか?
松下:そうです。“作っている目”ってわかるんですよ。そういうときは相手と目が合っても、合ってない感覚になる。自分もそうなってしまうときがあるからこそ、ちゃんと相手を見て、相手もちゃんと見てくれるということを、一対一で芝居するときは結構意識しますね。
――今のお話を伺っていると、まさに『キンキーブーツ』の「自分が変われば世界が変わる」というメッセージとリンクしているように感じます。
東:まさに!
松下:それはありますね。芝居は、どれだけ技術が優れている人でも、「自分はこうだ」というところで突っ走ると破綻しちゃう。芝居はみんなでつくるものだから。例えば、「なんでこんなにやりにくいんだろう。もっと相手がこうしてくれたらいいのに」と思ったときに、自分が変化球を出したら意外と成立することはありますね。だから相手の変化ばかり求めず、自分も色々と試してみるようにしています。
東:僕も柔軟でありたいと思います。もちろん“演じる”という時点で嘘の部分もあるけれど、できる限り“本音”でありたいし、その日その日で相手が感じていることを、僕も感じ取りたいと思っています。
自分自身が「受け入れられた」と感じた出来事は――
――『キンキーブーツ』からは、フラットに相手を受け入れる大切さも感じるのですが、ご自身が「受け入れられた」と感じたエピソードがあれば教えてください。
松下:ここ数年、ミュージカルを特に多くやらせてもらっているけど、昔からそういうわけではなく、音楽からキャリアをスタートさせて、同時に舞台も少しずつやっていたら、有難いことにお仕事を頂けるようになりました。自分みたいなタイプは日本のミュージカル界において王道ではないと、今も思っていて。別にクラシカルなタイプではないし、歌もポップスやブラックミュージックに影響を受けている人間なので、最初はやはり、こういうミュージカルの世界には受け入れられにくいんだろうなと思っていたし、受け入れられてないときもあったと思うんです。でも『キンキーブーツ』という作品をやらせてもらえるということは、ミュージカル界に「受け入れてもらえた」のかなと思います。
――今年2月の帝国劇場でのラストステージ、CONCERT『THE BEST New HISTORY COMING』にも出演されていましたね。
松下:いやー、まさか俺が立つなんて思わなかったですよね。
東:いやいや、そんなことないですよ!
松下:想像もしていなかったから不思議です。
東:そういう意味でも「受け入れられた」と。
松下:人生っておもしろいなと、自分を通して思います。流れ着いた先がこんなに素晴らしい場所で、もちろん自分でつかみ取っているものでもあるのだけど、不思議。やっぱり色々な作品や人との出会いで、ここに辿り着いたのかなと思います。
――素晴らしいですね。東さんはどうですか?
東:僕は身長がでかいので……。
松下:日本では大きすぎる、みたいな!?
東:そうなんですよ。最近は時代が変わってきているからこそ、身長が大きいところも含めて、面白がって起用していただけたりと、受け入れてもらえているのかなと感じます。僕にとって、有難い時代になってきているなと思いますね。
――最後に改めて『キンキーブーツ』の魅力と、舞台にかける意気込みをお願いします。
東:先ほどから出ている『キンキーブーツ』のテーマ、「ありのままの自分、他者を受け入れる」「なりたい自分でいる」というところが、華やかな作品の裏側にある大切なところだと思います。だからこそ皆さんに愛され、4度目の上演を迎えていると思うので、そのテーマを皆さんに受け止めていただき、僕らが背中を押せる存在になれたら。そして楽曲や衣装、照明、作品の全てを楽しんでいただきつつ、大いに盛り上がってもらえたらと思います。
松下:そうですね。やはり『キンキーブーツ』のテーマである、「なりたい自分になる」「あるがままに人を受け入れる」という、このメッセージがあるからこそ、僕らのパフォーマンスが効いてくる。だからこそ、これだけ日本で愛されている作品になっていると思うので、僕らのエネルギーやパッション、ソウルで劇場をぶち壊すようなところまで……!
東:(笑)。
松下:そして全員が静まり返り、劇場の皆さんが一点に集中するような瞬間、その両方を表現できたらと思います。
ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』
東京公演/2025年4月27日(日)~5月18日(日) 東急シアターオーブ
大阪公演/2025年5月26日(月)~6月8日(日) オリックス劇場
脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽・作詞:シンディ・ローパー
演出・振付:ジェリー・ミッチェル
日本版演出協力/上演台本:岸谷五朗
訳詞:森 雪之丞
出演:東 啓介/有澤樟太郎(Wキャスト) 甲斐翔真/松下優也(Wキャスト)
田村芽実/清水くるみ(Wキャスト) 熊谷彩春 大山真志 ひのあらた ほか
公式HP:http://www.kinkyboots.jp/