「芸事ばかりではなく、自分自身をしっかり密度の濃いものに」
――望海さんも宝塚歌劇団のトップスターを経て、さまざまな舞台でご活躍され、自分自身と闘ってきたところもあると思うのですが、その中で得たものや何か伝えたいことはありますか?
“諦めない気持ち”が一番大切かなと思います。簡単にできることや簡単に手に入ることが、果たしていいのか。諦めないで追求し、やり続けなければいけないことが、世の中には多いと思うんです。皆さんも壁に直面したとき、諦めずに闘ってほしいなと思います。
――好きなものがある人は強いなと思うのですが、マリア・カラスも歌や音楽がやはり好きだったのでしょうか。
本当に好きだったから続けていたのかは、まだ私自身分からないです。もちろんそこに生きがいや命の燃料があったから続けてきたと思うのですが、若い彼女の才能を見つけた、お母様の存在もあったのかなって。そこからの努力は彼女自身のものだし、嫌いだったら続けられないと思うけれど、自分の存在意義を歌や音楽に見出そうとしたのかなとは思います。
――これからどのように役を深めていかれるのか楽しみです。初めてご一緒される演出の森新太郎さんは、とても熱意のある方だそうですね。
大変なことしか想像できないのですが、とにかく森さんに必死についていきたいです! 共演者も初めてご一緒する方ばかりなので、いろいろな刺激を頂きたいです。普段オペラをやられている方もいらっしゃるので、特にオペラについて教えてもらいたいですね。昨年、初めてオペラを観に行って生の歌を浴びたのですが、主役の方が第一声を発された瞬間に「うわっ、違う!」と、その発声の振動にすごく感動しました。
――望海さんが宝塚時代、「全身を使って声を出すことを意識している」というお話をされて、「オペラ歌手みたい」と思ったのですが……!
いや、あれは本当に独学で、自分で「どこを使うと一番歌いやすいんだろう」と思って研究していましたが、当時は男役の発声を強く意識していました。退団後、さらに勉強していく中で、歌って奥が深いなと感じています。
――新たにボイストレーニングをするなかで発見があったのですね。
そうですね。やっぱり大切なのはコツコツ続けること。喉の筋肉って意識的に動かせないので、毎日やることで覚えさせていく、ということが必要です。だからジムに行って身体を鍛えるように、日々ボイストレーニングをすることの大切さを学びました。独学では分からなかったことをボイストレーニングの先生に教えていただき、ある時声が軽く出せるようになったり、今まで出せなかった音も出るようになったんです。この4年、地道な努力が必要なのを知りました。
――ではオフのときも、少し喉を動かしたりされるのですか?
ちゃんとトレーニングには行っています。公演中は結構喉を使っているので、戻すために公演中も先生にみてもらっています。そうでないと自己流になってしまうので。
――そうなのですね。ところで望海さんはロベスピエールやベートーヴェンなど実在の人物を演じられることも多いですよね。
やっぱり時代を生き抜いた人たちってエネルギーがすごいので、私自身も演じることで自分の中に眠っているエネルギーを舞台上で発散させてもらっているのを感じます。今、時代的にも省エネじゃないですか(笑)。そのほうが生きやすくなっているなかで、マリア・カラスのような役と出会えることは大きいです。きっとエネルギーを出せる才能ある人たちが歴史に残り、物語の主人公になっていると思うので、そういう方たちの力を借りられるのは有難いなと思います。
――マリア・カラスは芸能の世界で生きる厳しさも感じてきたと思うのですが、望海さんご自身はそういう芸能の厳しさを感じることはありますか?
厳しさはどの世界にもあると思うのですが、今の世の中はいろいろと厳しくできない問題があり、そのなかで生き抜いていくということの“厳しさ”もあるなと思います。そういう意味では、私は時代の狭間にいましたが、鍛えてもらったことは自分にとって糧になっていますし、これからはどうすればいいのだろう、という気持ちにはなります。
ただ、ブロードウェイへ行ったときや、海外のスタッフの方とお仕事したときに感じたのですが、皆さん“自分軸”をとても大切にされているんですね。これからはある意味、自分と向き合わないといけないのだろうな、と思います。芸事ばかりではなく、自分自身をしっかり密度の濃いものにしないといけない時代というか……。そこでは厳しさだけではなく、緩めることも必要だし、そのメリハリが大事になってくるのかなと感じます。
――昨年はお忙しいなか、何度か韓国旅行へも行かれていたようですし、プライベートも充実させたいという思いが?
はい、時間があればどこかへ行きたいなと思っちゃうんです。自然の中へ出かけるのも好きですし、刺激を受けにも行きたいなと思っています。
――最後に2025年の目標があれば教えてください。
自分をしっかりもつことが今年の目標です。『マスタークラス』も大変な挑戦になりますし、心がザワザワすることもありそうですけど(笑)、自分を見失わずにやっていきたいです。
舞台『マスタークラス』
東京公演/2025年3月14日(金)~3月23日(日) 世田谷パブリックシアター
長野公演/2025年3月29日(土)~3月30日(日) まつもと市民芸術館 主ホール
愛知公演/2025年4月5日(土)~4月6日(日) 穂の国とよはし芸術劇場 PLAT
大阪公演/2025年4月12日(土)~4月20日(日) サンケイホールブリーゼ
作:テレンス・マクナリー
翻訳:黒田絵美子
演出:森新太郎
出演:望海風斗
池松日佳瑠 林真悠美 有本康人 石井雅登/谷本喜基
公式HP:https://masterclass.westage.jp/
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