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Stage INTERVIEW

「一つの歴史を作っている感覚があります」『時をかけ・る~LOSER~』第二弾インタビュー① 松田岳×前川優希

歴史のヒーローたちの裏で消えていった敗者=ルーザーたちを描くオムニバス舞台『時をかけ・る~LOSER~』。歴史調査員に扮する6人の俳優が、観客=講義を聞きにきた参加者を前に、歴史上の人物の物語を研究発表するというていで、それぞれの敗者の物語が上演される。ストレートプレイ、グランドミュージカル、2.5 次元舞台など、ジャンル違いの5作品が 2024 年3月に上演。即日完売する人気舞台となった。同年 10 月にはスピンオフ作品『羽州の狐』も上演され、話題を呼んだ。
その『時をかけ・る~LOSER~』第二弾が、10 月に上演される。「関ヶ原の戦い」をテーマにした第一弾に続く第二弾は、「幕末・維新」をテーマに上演される。その中から、エンタメ活劇『壬生の天狗』で芹沢鴨などを演じる松田岳、3.5 次元ミュージカル『明治美譚~葵編~』で西郷隆盛などを演じる前川優希に、対談で話を聞いた。(取材・文/臼井祥子)

――第一弾の思い出を教えてください。

松田 さっきメイク室で話していたんですけど、前作、あんま記憶ないよねって。

前川 そう、記憶なくて(笑)。演劇っていろんな形で上演されることがあるけど、あの期間であれを作るって…。

松田 そうなんだよね。

前川 ご覧になった方はご存知だと思うけど、5本作ってるからね。

松田 5本作った。5本作ったね。

前川 そうそうそう。

松田 それぞれ時代も違うし、演出方法も違うから、持ち越せないんですよね。演じ方の要領みたいなものを、違う作品に。

前川 たしかに。

松田 それがこの作品の魅力ではあると思うのですが。

前川 だからこそ良さん(演出:平野良)の中にあるメソッドだったり引き出しにあるものをお聞きして、それに近づこうと奮闘してました。それを誰か一人が担うわけではなく、5本を5人で全部背負っていました。僕が一番若造だったんですけど、とても心地の良い現場で。

松田 すごく一体感があったよね。

前川 うん。素晴らしい表現の場にいられているなっていうのと、素晴らしい俳優さんたちの中で芝居ができていることの、居心地の良さ。

松田 振り返ったらあっという間で、だから記憶がないっていうのは、そういう感じです。

――どの作品が一番楽しかったですか?

松田 それぞれ別の楽しさを味わっていました。「恵瓊」(安国寺恵瓊を描いた『嗤う怪僧』)はお経からの始まり方が大好きだったし、終わり方には『世にも奇妙な物語』を見終わった後のような満足感がありました。慎ちゃん(安西慎太郎)のお芝居が素晴らしくて、恵瓊の生き方をずっと(楽屋に)はけずに見続ける目撃者の時間もあったので、その楽しさもありました。『被告人 ヒデトシ』はガラッと空気感が変わって、時計のカチカチカチの音から始まるんですよ。始まってしまえば時計が勝手に進むように、僕らも作品の歯車になったかのような、部品になったように感じる瞬間がいくつもあって、「ヒデトシ」のパーツの一部であるみたいな感覚が、僕はすごく楽しかった。

前川 稽古場がね、この作品をやってる時の稽古場とその作品をやってる時の稽古場が、雰囲気が全然違うんですよ。恵瓊をやってる時は、みんな慎太くんの演技に飲まれて「(小声で)すごいね」ってなってて、「ラブミュ」(『ラブミュ☆北の関ケ原』)を作ってる時はみんなゲラゲラ笑って、「それそれ(笑)」ってやってた。全然違うんですよ。

――観てる側も温度差で風邪をひきそうな変化のある舞台でした。

前川 作ってる側もそうでした。

松田 いろんな作品にタイムスリップしたかのような感覚でした。

――いろんな作品をやって、ここは自分の課題だなと思ったところは?

前川 僕は武器がないこと。これだけ多才な、攻撃力のある武器を持っている方たちを前にすると、オールラウンダーであることよりは突出したものを持っていることのほうが強いなと思い知らされました。みんながオールダウンダーじゃないってことじゃないんですが、僕はこの期間、もうこの人たちにはかなわないから、せめて自分が気にできる範囲で、できることは全部やろうと思いました。誰よりも早くやろうってことで、この座組に自分がいる意味を保ちつづけようという覚悟を決めました。5本中、自分が主演をやった「ラブミュ」以外の4本の主演を担うことは、自分にはできないと思ったんですよ。それはネガティブな感情じゃなくて、「わ!すごい!」って尊敬の気持ちです。自分はまだまだだなって感じました。

――松田さんのことはどう見てました?

前川 カッコいい。カッコよさにもいろいろあるけど、がっくん(松田)からは浪漫を感じるんですよ。俺たぶんがっくんってロマンチストなんじゃないかなと思ってて、それが滲み出てる。特に『莫逆の友』(松田岳主演の大谷吉継の物語)で浪漫を感じました。しかも、カタカナじゃなくて漢字の「浪漫」です。『莫逆の友』ではがっくんと嶺さん(木ノ本嶺浩)と僕の3人で一緒にいる時間が長かったのもあって、こういう男の子たちの関係っていいよなあって思ってました。それはがっくんの持ってる空気が大きいんだろうなあと。

松田 『莫逆の友』では一生悩んでました。役者をやっていてこれまでにも武将とか、家臣を従えている役を何度かやらせていただいたことはあるんですけど、友であることの重圧や責任を今までちゃんと感じられていたかなって。優希くん(前川)や嶺くん、周りの人たちのことをどう思って生きてきたのか、自分をすごく責めながら演じてました。

――松田さんは、前川さんのことをどう見ていましたか?

松田 優希くんはオールラウンダーって言ってましたが、もちろん器用だし、どの作品にもマッチする人なんですが、前川優希からしか得られない栄養素は確実にあって、それはお客様も感じていらっしゃると思うし、僕も何度もそばで間近で見てきたから、「あ、これこれ ♡」って思う時はすごく幸せな気持ちになるんですよ。オールラウンダーの器用さを発揮していたところから、一個何かハプニングが起きた時に…。

前川 俺、弱いよね(笑)。

松田 その時に出る顔が、ほんと好きで(笑)。

前川 地盤が崩れる音がする。ガラガラガラガラ。崩れていく、何もかも。

松田 それを摂取したい自分がいて(笑)。

前川 (笑)

松田 それは(前川が)いろんなことにアンテナを貼って、掬いとれる技量があるからこそ得られるものなんだろうなあと思うんです。それは僕にはないもので。3.5 次元ミュージカル(=ラブミュ)の真ん中に立って、キラッキラでやってくれた。僕らも影響されてキラキラしてみようと思えたのは、優希くんがいてくれたからなので。

前川 まったく恥ずかしさとかはないんです。あれをやることに。僕も最初は「3.5 次元ミュージカル」って聞いた時に、「あれ?」とは思いました。「2.5 次元」って僕らが3次元にいる前提で2次元に近づけるわけで、それじゃ「3.5 次元ミュージカル」は僕らが 4 次元にいないとおかしいよね?って。あと一歩で『ドラえもん』のところまで行ってる。それをどういう形で表現するか。良さんが稽古場で「やっぱ『ラブミュ』の稽古をやってると楽しいわー」って言ってて、めちゃくちゃ面白そうだったから、よかったって思いました。

――第二弾も 3.5 次元ミュージカルがあって、お二人が中心になっておやりになるんですよね?

前川 あれをやる時には、隣には松田岳にいてほしいです。

松田 譲りたくないですね。タイトルが気になるよね。『明治美譚~葵編~』「伝説の乙女ゲームがミュージカル化」って、知らねえよって(笑)。

前川 (笑)。伝説の乙女ゲームがあったというていでやるのね。エイプリルフールに発表して。

松田 ボイスまで録りましたからね。

前川 そう。CV(キャラクターボイス)。CV 松田岳、CV 前川優希って。

松田 あれ、なんかうれしかったですね。

前川 『明治美譚』の主人公は西郷隆盛なんですが、僕は以前 NHK 大河ドラマ『西郷どん』に出演して、尊敬する俳優さんたちに出会えたし、挑戦する日々を過ごさせてもらったんですよ。その方と同じ役をやるってことがすごくうれしいです……が、はたして同じ役でも、同じような役になるのかは、わからないんですけど。

松田 これはもう、るひまさん(る・ひまわり)だからね。

前川 3.5 次元ミュージカルだからね。

――エンタメ活劇『壬生の天狗』では芹沢鴨(松田)と沖田総司(前川)を演じられますが、芹沢鴨はどういう役ですか?

松田 エンタメ活劇は 3.5 次元ミュージカルとは違って、結構史実に則った大河ドラマのような作品になるのかなと予想しています。自分は日本史に明るいわけじゃないので、学校の授業で習うような有名な人ぐらいしか知らないんです。たとえば勝海舟や西郷隆盛、坂本龍馬とかは知ってるけど、芹沢鴨は「そんな人いたの?」って最初思ってしまったんですよ。もちろんちゃんと調べて、今はとても重要人物だと知っているんですが。そういう人物も、何かを成したから名を残しているわけで、それを学ぶことができるのは、素敵ですごく楽しみだなと思っています。

――自分が敗者だと感じたことはありますか?

前川 僕は年越すたびに思ってますよ。

松田 年越すたびに。

前川 年越しが迫るたびに思っています。

松田 るひまの年末の祭シリーズが近づいてくるたびに?(笑)。

前川 うん。「なぜ俺は自己紹介の一つも満足にできないんだ」と。自己紹介でお客さんを笑わせることすらできない。

松田 みんなちゃんと笑ってるよ。

前川 違う。それは僕が笑わせてるんじゃなく、僕が笑われているだけ。これは雲泥の差ですからね。がっくんはね、ちゃんと笑わせてるんですよ。でも僕は笑われてる。

松田 僕も同じだよ(笑)。

前川 がっくんはすごいよね。寿命を削っているかのようなすごさがある。

松田 あれは僕の命の使い方だから(笑)。

前川 命の灯火を燃やしてるもんね。

――この人には勝てないという相手はいますか?

前川  母親です。常に新しいことをしてる。しかも常に結果を出している。自分が満足して、他人も満足させるまでやって、で「飽きた」って言って仕事を変えてる。

松田 素敵。

前川 母は保育士の資格を取ったんですけど、試験の時に実技があって楽器を弾くんですよ。で、ほかの人はピアノを弾くのに「みんなピアノだとつまらないから」って、アコギ一本持って試験会場に行った。

松田 カッコいい!

前川 アコギで童謡を弾いたそうです。エンターテイナーなんです。

――その血を受け継いでいるんですね。

前川 受け継いでいるかはわからないですが、その行動力と実現力は見習いたい。あの母に育ててもらったという実感もありますし、自分の人生を楽しんだ上で俺を愛してくれた、その器と愛を感じるので、かなわないなと思います。

松田 僕はオーディションを受けた時の審査員の表情で「あ、敗者」と思うことがあります。そういう時にわき上がる悔しさと、絶対に見返してやるって気持ちがあって、でもそれはすごく大事なことだなと。「かなわないな」と思う人だらけなんですよ。だけど、自分に対していつまでも期待できる自分でいたいなと思うから、「かなわないな」って思う人だらけの現場にたくさんいたい。敗北って成長のチャンスだと思うので、それだけすごい人たちに出会って、刺激されたいです。

――最後にお客様にメッセージをお願いします。

前川 演劇って壮大な歴史の積み重ねがあるんだけど、それでもまだ誰もやっていなかったことがある。それを今、俺たちがやれてるんだと思うとすごく楽しくて、俳優冥利に尽きる。そういう場にこの若さで、自分で若さって言っちゃいますが(笑)、この若さで呼んでもらえるんだということを誇らしく感じていた第一弾でした。第二弾も同じメンバーで上演できることに本当に幸せを感じています。お客様にも『時をかけ・る~LOSER~』第二弾を存分に楽しんでいただけたらと思います!

松田 本当にいつも応援していただいてありがとうございます。お客様が盛り上げてくださったおかげで、僕はこうしてるひまさんに骨を埋めることができました。

前川 骨を埋めることが確定してるんだ?(笑)。

松田 そうそう(笑)。いつか未来から来た調査員が松田岳を調査するってなった時に、「るひまに骨を埋めた人なんだ」っていう見解になることは確定してる。

前川 エンタメ活劇「松田岳」が。

松田 上演される。俺の夢はそれですね(笑)。それくらい、るひまさんって歴史になってきてる気がするし、それを制作してるスタッフ陣、キャスト陣、そしてお客様も含めて一つの歴史を今作っているんだなという感覚がずっとあります。その中で生きることの幸せを噛み締めつつ、偉人たちのいろんな生き方を勉強させてもらい、体現します。ぜひ、Club eX に足を運んでください!

本作は、10 月 30 日(木)から東京・品川プリンスホテル Club eX にて上演。また 11 月 9 日(日)に大阪・サンケイホールブリーゼにて、キャストが登壇して上映会が行われる。
詳細は下記公式サイトにてご確認を。
https://toki-wo-kake

 

 

 

 

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田中樹・柚香光・鈴木拡樹・いのうえひでのり

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