「しゅーてぃー(眞嶋)が僕たちを兄にしてくれた」
――ご自分の役についてどう考えていらっしゃるか教えてください。
一色 エド(エドワード)は瞬間湯沸かし器のような側面があると思っています。ひょんなことをきっかけにパッと沸騰しちゃう。それから、上司である大佐への態度がきつかったりもするんですけど、その裏にはちゃんと心の開きがあって。そういったところはとてもチャーミングですよね。焦りや怒りの理由を紐解いていった結果、少年らしいナイーブな側面に突き当たったこともたくさんあります。演じ甲斐のある魅力的な人物です。
廣野 普通に生きていると取捨選択をすると思うんですよ。譲れないこともあれば、あきらめることもある。僕はそうなんですけど、エドワード・エルリックは全然譲らない男です。それができる内面の強さ、責任感が超一級。本当に覚悟の決まった、男の子が一番なりたい人間味のあるヒーローだなと思います。
眞嶋 第一弾からずっと演じてきて、アル(アルフォンス)は、読者や観客の視点で、エドを主人公にしたこの物語を見る役なのかなあと最近思うようになりました。彼はそもそも普通の少年で、小さい時に肉体を奪われて魂を鎧に定着させて生きている。それってすごく悲惨で重大なことなんだけど、やっぱり根っこにごく普通の優しい少年の心があるんですよね。そんなアルも強烈なお兄さんのエドと一緒に旅をしてきて、自分もこの国のために何かしたいという気持ちが芽生えてきたんじゃないかな。

――第一弾、第二弾で印象に残っていることは?
一色 電話ボックスでヒューズさん(演:岡本悠紀)がエンヴィーに殺されてしまうシーンの演出はすごかったです。電話ボックスが意地悪く、くるくる回るんですよ。しかも回しているのは、ヒューズさんの暗殺に関わる人たち。つまり、回す意味のある人たち。ああいう演出に触れた時に「僕らが携わっている演劇ってものすごくカッコいい」と思えて、”エドを演じること”へのアプローチとか、苦労していることがたくさんあっても、自信を持ってお届けできるこの作品のスタイリッシュさに救われた時がありました。
廣野 それを生み出している脚本・演出の石丸さち子さんをはじめキャスト・スタッフのパワーがすごいんですよ。さち子さんが「賢者の石」になって、カンパニーのパワーを増幅させていると僕は思います。僕は芝居もできるし楽曲も作れるんですけど、でもそれは自分のキャパに収まる範囲のものだからで、舞台ハガレンに関していえば、キャパを広げていかないとできないんですよ。求められているものに追いつくために頑張らないといけない。その基準をクリアできないなら芸能の仕事を辞めるか、みたいなことを試されてる感じ。国家錬金術師試験を毎年受けるような気持ちで、挑んできました。
――すると、第一弾より第二弾のほうが求められることが増えていましたか?
廣野 自分で考えられることが増えました。第一弾の時にさち子さんが役者に合わせて「ここまででいいよ」としてくれていたことが、第二弾の時には自分のベーシックになっていて、そこからさらに多くのことを考えて試せるようになった。第一弾の時にさち子さんが妥協したということじゃなく、少しずつ引き上げてくださったんだと思います。舞台ハガレンは僕がなんの準備もなくやろうとしたら10%くらいしかできないんです。それを100%まで引き上げていく作業を稽古場でする。そういう現場って実はあまりないんですよ。大人になるとできることしか求められなくなってくるじゃないですか。でも舞台ハガレンでは、”すぐにはできないけど頑張ればできること”に挑戦させてもらえる。パワハラ的な意味じゃない厳しさの持つ良さがある。苦労しないとたどり着けない場所に行ける。それをキャッチできる人間にとってはすごくありがたい現場です。
眞嶋 僕にとってハガレンの稽古場は、裸で稽古ができるくらい心を許せる場所なんです。それはこのお二人の持つ人間力が大きいんですよ。お二人が自分がやりたいことをちゃんとやっているから、僕たちも遠慮とか恐怖とかを感じずになんでも試せるし、ちょっと躓いても、次の日にはもっと上を向いて突っ走っていける。みんなそんな感じなので、顔が生き生きしているんですよね。稽古場から帰りたくないってなる。
廣野 帰りたいよ!
一色 (笑)
眞嶋 (笑)。そうなんですけど、朝早くから夜遅くまで、もっと頑張りたいっていうか。
廣野 うん。頑張りがいがある稽古場だよね。
――そのハガレンの第三弾ですが、今回挑戦したいことは?
廣野 僕は”ナチュラルにその場にいること”を目指しています。エドはエドなりに成長してきて、関わる人も増えてきて、そういう中でエドがどう揺れ動いて何を選択するのか。それを本当にそこに起こっていることとして生きられるか。それは簡単なことではないです。セリフも次の行動も決まっている分「次何するんだっけ」とか、余分な思考が入った瞬間、予定調和になってしまう。もちろん考えはするんですけど、その思考を雲隠れさせて自然にエドとしてそこにいられたらと思っています。
一色 僕らはオーディションから数えるともう4年もエドと付き合っているんですよ。でも長くやっていればやりやすくなるかというとそうでもなくて、やればやるほど新しい壁にぶつかることも多いです。でもこれ、この前、凌ちゃんとも話してたんですけど、最近あまりへこまなくなったんですよね。さち子さんの演出はハードルが高いし、悩むこともあるけど、へこみはしない。それって、エドの思考の仕方を無意識にもらっているんじゃないかなと。エドは悩みながらも課題達成に向けて必ず前向きに「考える」んですよ。落ち込むだけでは終わらない。そういう建設的な思考は、この舞台の現場からもらった強さでもあるし、エドからもらった強さでもあるのかなあと思います。
――演じる役から影響を受けるんですね。
一色 思考を追うから、無意識に脳トレみたいになっているのかも。
眞嶋 僕はスーツアクターの桜田航成さんと二人でアルを作っているんですが、今でも正解がないというか、やればやるほど深掘りが必要になってきて、もっとできるよねと思います。でも孤独への耐性はついてきたかな。本番が始まると袖から声を出すだけで、誰も僕のことを見ない。舞台上の皆さんと目が合うことがない。第一弾のころはそのことにもヒリヒリしてたんです。心の置き場がわからないというか。
――たしかに、会話しているのに視線は眞嶋さんに向けられないから…。
眞嶋 そうなんです。でもそこにはだいぶ慣れてきて、今挑戦したいことは「裸眼立体視」みたいに、桜田さんの演技と僕の声が離れた場所にいるけど、組み合わさって立体的に見えてきたらいいなあということを考えています。
廣野 なってるなってる。
一色 うん。なってるよ。

――一色さんと廣野さんは、お互いのことをどう思っていますか?
廣野 お化けですよ。さっきエドのことを「瞬間湯沸かし器」って言ってたけど、それ、あなたのことですからね。俺は火にはなれるけど太陽にはなれない。でも彼は太陽になれるんですよ。カチッとスイッチが入った時の爆発力と、何万度もの温度。あの圧のすごさは真似できない。普段は品行方正で優しいけど、筋肉モリモリだし、実は相手のことを「いつでもぶっ飛ばせるしな」って思ってるから余裕があって優しい、みたいな感じがします。
一色・眞嶋 (爆笑)
廣野 生物としての強さを感じるんですよ。俺に対しても、ペットに対して優しくするような余裕を感じます(笑)。俺とは次元が違うというか、そのパワーが演技にも出ていて、この人が舞台にいると目が離せなくなる。刺激をめっちゃ受けています。
一色 僕はさっき、凌ちゃんが「ナチュラルにその場にいることを目指してる」って言っていて驚いたんだけど…僕は凌ちゃんのそのナチュラルな居方に、第一弾からずっと憧れてきたんですよ。でも、それでもまだ高みを目指すんだと。凌ちゃんの中のナチュラルにはまだ先があるんだと。あと、ハガレンって結構情報量の多い作品なんですが、今回の稽古中に、「ハガレンという作品に初めて触れるぞ」くらいのかなり引いた気持ちで通し稽古を見てみた日があったんですけど、凌ちゃんを追っているとちゃんと話がわかるんですよ。凌ちゃんについていくってことは、ハガレンについていけるってこと。そう感じさせてくれるのは凄いなと。たまにエキセントリックな発言もするけど、彼自身は柔らかくて繊細でナイーブな人。僕は表現者・廣野凌大も好きですけど、この4年かけて人間・廣野凌大が大好きになりました!
廣野 うれしいです。俺もまったく同じ気持ちで。これ絶対書いてほしいんですけど、彼は誕生日とかにメッセージくれるんですよ。マメで、この間も「これ新作出てたから」って栄養ドリンクを買ってきてくれて。やっぱりこの人俺をペットだと思ってるなって思いました(笑)。
一色・眞嶋 (笑)
廣野 第一弾の時はダブルキャストだから、言わないけど、お互い意識してたよね。
一色 うん。
廣野 負けたくないし、どう差別化しようみたいな気持ちが多分、絶対あったんです。でも4年やってきて、今はもう「悔しいけどすごいな」「刺激を受けたぞ」「オッケー、俺は俺で頑張る」みたいな認め合いがスムーズにできるようになった。
一色 めちゃくちゃわかる。
廣野 今回の稽古場はね、今までで一番開けている気がします。この稽古場なら俺、全裸になれますよ!
一色・眞嶋 (笑)

――眞嶋さんはそんな兄二人を前に、それぞれどんなふうにアルを演じていますか?
眞嶋 第二弾が始まった時から二人の色が出はじめてきて、2種類の物語を心から楽しんでやっていたというだけなんですけど、心を開ける現場だからこそ、それぞれの人間性が滲み出ているのかな。でも根底にある、心を震えさせることのできる役者だっていう点はお二人とも優れているので、だからこのエドワード・エルリックができるんだと思います。それはオーディションで一緒に演技をした時からこの二人には特に感じていました。なんていうか、目の奥が違ったんですよ。
――そんな二人のエドですが、どういうタイプの人にはどっちがオススメ、というのを眞嶋さんに教えていただければと。
廣野 両方観てくださいよ!(笑)
眞嶋 えー。なんだろう。難しいなあ。山か海かどっちに行きたいかってことですよね。どっちの気分か。
一色 和食か洋食か。
廣野 まあ、でも「こうなりたかったらこう!」みたいなのあるでしょ?
眞嶋 うーん。
スタッフ 第一弾の時に石丸さんが「愛の一色、怒りの廣野」とおっしゃってましたね。
一色 ありましたね。そのあと、怒りは愛がないと生まれないともおっしゃってた。
廣野 たしかに。俺も愛になりつつあるしな。
一色 そうだね。
眞嶋 究極の質問ですよね。難しいなあ。
廣野 でも俺のファンが間違えて一色洋平回を買ってもまったく問題ないくらい面白いです。たぶん洋平さんにも俺が滲み出てるし、俺にも洋平さんが滲み出てる。毎日一緒なんです。毎日稽古場で一緒にエドを作ってる。二人で集いながらやってるんですよ。洋平さんがベースを作って、それを俺が俯瞰で見て、「ここ多分こう動いたほうがこう見える」と思ったことを俺がやって、それを見た洋平さんがさらに超えてきて、そうやって二人で作ってます。と俺は勝手に思ってるんですけど。
一色 それはあるよね。
廣野 第一弾、第二弾はやっぱ悔しさが多かった。でもトライアンドエラーを繰り返すうちに、お互いに改善点をスムーズに提示できるようになったよね。
一色 凌ちゃんは「多分こう動いたほうがこう見えますよ」ってすぐ言ってくれるもんね。それをやると本当にその通りで、動きやすくて。物理的にも精神的にも助かってる。
廣野 心が二つになって、目が四つになってる感じ。パーマンのコピーロボットみたいに、お互いの経験を共有できるから。

――そんなお二人から見た弟はどうですか?
廣野 もうね、弟以外の何者でもないです。エドにとってアルは、自分の右手を犠牲にしてでも取り戻したかった弟なんですよ。お母さんが早くに亡くなって、父親も家にいなくて、二人きりで過ごしてきた時間が長すぎて、それを舞台の上で演じてきてるので、俺には実際弟がいるんですけど、それとはまったく感覚が違くて。
一色 うん。第一弾の人体錬成の場面が、ベースにある気がします。
廣野 稽古をしていて、みんな結構声に釣られてしゅーてぃー(眞嶋)のほうを見ちゃうことがあるんだけど、俺らはもうそれがなくて、航成さんを見て、しゅーてぃーの声と会話できる。それが、俺たちが鎧の体のアルを受け入れられてるってことなのかなと思ったりして。
一色 今回稽古ですごく難しい場面があって、一回、航成さんじゃなくてしゅーてぃーが実際に鎧アルの立ち位置に入って、直接僕たちと芝居をしてみようということになったんですよ。そうしたらやっているうちにしゅーてぃーがポロポロ泣きだして。さっき「孤独」って言ってたけど、こんなに孤独を抱えていたんだなって、あの時思いました。それがアルと重なって、早くこの子の体を取り戻してあげたいなと、より強く思うようになって。4年続けてきてできた関係は言葉では言い表せないことがたくさんあるけど、僕らを兄にしてくれたのは、間違いなくしゅーてぃーです。
――最後に一言ずつメッセージをお願いします。
眞嶋 めちゃくちゃ元気になれる、パワーをもらえる作品です。唯一無二の舞台だと思うので、何にも背負わず観にきてください。
廣野 俺たちがなんのために舞台を作っているかというと、やっぱり観にきてくれる人のためなんです。こんなに純度の高い「面白いから観にきてください」と言える舞台はそうなくて、それは間違いなく「あなたのために頑張った」からなので、あなたもキャストの一人として、この舞台に参加してほしいな。
一色 僕らはこのカンパニーを「劇団ハガレン」と呼んだりするんですが、セリフだけじゃなく、殺陣だけじゃなく、場面転換一つをとっても演劇人として誇りを持って作っています。「鋼の錬金術師」は日本を代表する漫画ですが、舞台『鋼の錬金術師』も日本の演劇界を代表する作品になっていると思います。チーム一丸となってお届けします。ぜひ劇場まで足をお運びください!
――ありがとうございました!
眞嶋 …あの、いいですか? さっきのどっちのエドがってやつなんですが、野菜と果物だなと思いました。
――どっちが野菜でどっちが果物ですか?
眞嶋 それはお客様に考えていただいて。
廣野 そこは決めないんだ(笑)?
眞嶋 野菜も果物も心にも体にも栄養が取れる。あなたはどっちを食べたいですか?って感じで決めていただければいいと思います。もちろん両方食べてもいいですし。
廣野 いいね!
一色 それで行きましょう! よろしくお願いします!
舞台『鋼の錬金術師』―闇と光の野望―は2月15日まで東京・シアターHにて上演中。2月20日から22日まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演される。
2/11(水・祝)18時公演、2/14(土)18時公演はライブ配信も決定!
詳細は下記公式サイトにてご確認を。
https://stage-hagaren.jp

次ページで本番の舞台写真と、荒川先生の応援コメントを紹介します!
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