(取材・文・撮影/小野寺亜紀)
観客の度肝を抜いた90分ノンストップのアイスショー
取材会場に現れた宇野さんは、開口一番「僕はかしこまった場が苦手。真剣な心持ちで聞かれると照れてしまうので、気軽に聞いていただけるとうれしいです」と伝え、一気に場が和む。自ら構成・演出・選曲・キャスティングまでおこなった『Ice Brave』(2025年6月開幕)は、彼が現役時代に滑ってきた数々の名プログラムを、今だからこそ魅せられる新たな演目として昇華した90分ノンストップのアイスショー。
「フィギュアスケートというと綺麗で静か、というイメージを持たれがちですが、力強さや楽しさ、エネルギッシュさを意識して『Ice Brave』というタイトルにしました。今回、タイトルはそのままで“2”としたのは、コンセプトは変えず、“1”で好評だったものは残しつつ、レベルアップした、また少し違うものをお見せしたいからです」
出演は、第1弾で宇野さんとアイスダンスを披露し大きな反響を呼んだ本田真凜さん、本郷理華さん、中野耀司さん、唐川常人さん、櫛田一樹さんに加え、新しく吉野晃平さん、佐藤由基さんを迎えての全8名。
「完全に人間性で選ばせていただきました(笑)。僕自身、初めてのアイスショーだったので、どうしていいかわからない部分が多く、手のかからない子たちを選びました――というのは、半分冗談ですが、一人ひとり個性に溢れていて、素晴らしいもの(ショー)になったと思います」
バックステージでもキャスト同士仲良く過ごし、ゲーム好きで有名な宇野さんらしく、男性陣には「強制的にモンハン(モンスターハンター)をやらせました」と明かす。「ショーではもちろん最善のパフォーマンスをしますが、オフはみんなで楽しく笑い合い。そのいい雰囲気がショーでも垣間見える瞬間があるかな」。ゲームをすることが「息抜きになっているといいですね」と言いつつ、「一番面白いゲームは息抜けないんですよ。ストレスがたまらないゲームはいいゲームじゃない。ここ紙一重なんです」と熱弁すると、会場が笑いに包まれる。
そんな宇野さんが競技時代を振り返るときは、キリッとした表情に。「僕がトップで戦えたのは、目の前にある練習や試合に全力だったから。もちろん皆さん全力だと思うのですが、心持ちの高さ、強さに関しては人に負けてないかな」と打ち明ける。プロに転向し、『Ice Brave』をプロデュースするなかでは、さらに新たな心境の変化が。
「競技では自分をプロデュースすることはなく、やるべきことに取り組み、自分自身と向き合う毎日でした。当たり前のように試合に出て、いい成績も、悪い成績も残し……。何か新しいもの、ゼロからイチを生み出すことはなかった。だからイベントを提供する立場になり、いろいろな場所で広報活動をしたり、人とコミュニケーションをとるなど、“自分が何かをしないと進まない”という経験をさせてもらえて、自信に繋がりました。苦手なことだったからこそ、すごくプラスになったと思います」。
これまでスケート以外のショーや舞台を観る機会は少なかったという。けれど様々な舞台へも足を運び、「知識のない自分が舞台を観て、どこに感動するか」という視点を、アイスショーにも活かしている。「スケートを知らない人も楽しめるショーにしたかったし、これからもそういうものを作りたいです」。
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