
「初舞台で演じる楽しさを『テニミュ』で魅せ方を学びました」
――平野さんご自身のことを教えてください。俳優を目指したきっかけは?
きっかけは特にないですね。物心ついた頃から芸能系のことをやりたいな、テレビの中に入りたいなってなんとなく思っていたんです。でも今みたいにネットもないから情報がないし、周りにそういう関係の人もいないし、それで新聞に載っていた児童劇団の広告を見て勝手に申し込みました。特に憧れの俳優さんなどもいなかったですが、小学校の時に『みにくいアヒルの子』『それが答えだ!』『聖者の行進』などのドラマを見ていて、同世代の子どもがたくさん出ていて、それでなんとなくいいなと思った気がします。
――劇団に入って、そこから『3年B組金八先生』などのテレビドラマに出演されました。当時のお仕事で印象深いものはありますか?
十代の時にやった仕事は全部印象的です。最初の仕事は『あぶない放課後』のエキストラでした。二宮和也さんと加藤愛さんと渋谷すばるさんが出ていらしたドラマで、今の表参道ヒルズができる前に建っていたアパートで撮影しました。それが最初の現場。八景島シーパラダイスでも撮影したなあ。当時中学生で、通行人の役でしたが、めっちゃ緊張しました。もちろん誰も僕のことは見てないんですよ。カメラも向いてない。でも芸能界に片足突っ込んだみたいな感動があって。
それから、地方ローカルのCMで初めて自分にカメラが向いた時のことも覚えていますし、別のドラマで加藤愛さんとご一緒した時に『あぶない放課後』の時の話をしたらすごく優しい言葉をかけてくださったことも。映画の打ち合わせでTMC(撮影スタジオ・東京メディアシティ)に行って、エレベーターが開いたら西田敏行さんがキラッキラしたフラスコを持って立っていらっしゃったこともありました。「撮影中?」って思ったけどそうじゃなかった。普段からこんな感じなんだなって。
十代の頃の現場は全部新鮮で印象深くて、よく覚えています。『3年B組金八先生』も撮影の内容はあんまり覚えていないんですが、裏でやったイタズラとかは今でもよく覚えてます(笑)。
――そこから舞台に行かれた?
一度芸能をやめて、戻ってきて所属した事務所で、「舞台はやらないの?」と言われたんです。でもやりたくないって言ってたんですよ。舞台はめちゃくちゃ勉強して訓練したプロしかできるわけがないと思って、二の足を踏んでた。ですが、羽原大介さんが脚本・演出される舞台があると知って、この人の作品に出たいなと思ってオーディションを受けたんです。プラチナ・ペーパーズさんの『ラフカット』っていうオムニバス作品で、脚本は作品ごとに違って、ほかの演出は全部堤泰之さんでした。
運よく受かったんですが、性同一性障害の人という重めの役でしたし、僕は舞台のことは何もわからない。けど、十代の頃にはドラマに出てたから、ちょっとしたプライドはあるじゃないですか。で、稽古場で、台本にト書きで「小声で」って書いてあるから、小声でセリフを言ったんですよ。そうしたら羽原さんが「聞こえねーよ!」っておっしゃる。僕は「お言葉ですが、小声でと書いてあります」「舞台は小声に聞こえるように大声で言うんだ!」「じゃ、お言葉ですが“小声に聞こえるように大声で”とト書きに書くべきじゃないですか?」って言い返しまして(笑)。
――羽原さんに?(笑)
くっそ怒られました。で、その日に僕は先輩3人くらいを「カラオケ行きませんか?」ってお誘いしてカラオケに行って、音を全部切って「録音させてください」ってお願いして、僕のセリフを全部言ってもらって、家で3人分の話し方をまず完コピしました。だってわかんないから。出演は決まってるからやんなきゃいけないけど、僕には経験がゼロだから。小声みたいな大声なんか人生で出すことないじゃない? そのやり方を先輩方に教えてもらいました。先輩たちもよく付き合ってくださったなと思います。
――平野さんの舞台の歴史は、すごいところから始まったんですね。で、次の作品が『テニミュ』。
初舞台で演じる楽しさを知って、2本目の舞台の『テニミュ』では、圧倒的に魅せる技術を学びました。出演が決まって生で見に行った時に、「カッコいい!!!」って、主に古川雄大に魅せられて、やばかったです。最初に一緒に稽古したときは緊張しました。王子様だなあって。牧田哲也とか平田裕一郎とかも、あの時は本当にカッコよかった。そういう魅せ方を教えてもらった作品でした。
――『ハンサム落語』も長く出演されていましたね。
親友・宮下雄也と出会えた舞台です。今度二人で沖縄に行ってきます! 二人っきりで沖縄に行ってきます! ハンサム落語の話じゃない(笑)。そんな親友と出会えた場所です。

――そして平野さんといえばミュージカル『憂国のモリアーティ』についてもお話を伺いたいです。
『モリアーティ』はもうね、今後も続いていくと思いますし、大切にしてます。シャーロック・ホームズを演じさせていただくことは光栄なことですし、僕の中でトップ3に入る大切な役。今後もずっと考え続けて大切にし続ける役であり、作品だなと思っています。
――俳優としても活躍されている中、演出の仕事はどうして始められたんですか?
やりたくて始めたわけじゃないんですよね。最初に演出した『BIRTHDAY』も、いろんなことがあって結果やることになった。でもやってみたら面白いし、最近になって演出をする意義を見出せてきてるので、もうちょっと突き詰めていきたいなという目標はあります。
――今後比重としては?
基本はやっぱりプレーヤー(=俳優)です。そこから始まっているしプレーヤーでいたい。でもプレーヤーであるからこそできる演出もあると思うので、そういうものをやっていきたいです。
――最後に、舞台のテーマは「ルーザー」ということで、平野さんが自分はあの頃敗者だったと思う時代を教えてください。
小学校を卒業してからずっと敗者です。小学校の時は無敵だった。何もかもが自分中心に回っていたと確信できる時代だった。そこからちょっとずつずれて、あ、俺以外のことで世界は動いているんだなとわかるようになりました(笑)。
本作は、10 月 30 日(木)から東京・品川プリンスホテル Club eX にて上演。また 11 月 9 日(日)に大阪・サンケイホールブリーゼにて、キャストが登壇して上映会が行われる。
詳細は下記公式サイトにてご確認を。
https://toki-wo-kakeru.com