その『時をかけ・る~LOSER~』第二弾が、10 月に上演される。「関ヶ原の戦い」をテーマにした第一弾に続く第二弾は、「幕末・維新」をテーマに上演される。第一弾から引き続き演出を手がける平野良に話を聞いた。(取材・文/臼井祥子)
「いろんなジャンルの平均値を大切に作りました」
――第一弾が決まった時のことを教えてください。
いつお話を頂いたんだったか…。たしか、『BIRTHDAY』という僕が演出した舞台を見てくださったプロデューサーさんから「演出やりませんか」とお声がけいただいて、5本作ってオムニバスで上演するというのは面白そうだなと思った記憶があります。
――5本も作るのは大変そうだと思うのですが、ポジティブに受け止められたんですね!
いろんなジャンルがあるからこそキャストそれぞれの持ち味が出しやすいんじゃないかなって思ったんですよ。作ることを考えないで、もし自分が役者として参加したらこの企画は面白そうだなあって感覚でしたね。
最初、稽古に入る前にノートを作って、センターステージが開いたり閉まったりするのを絵で描いてシミュレーションして。いろいろ考えて稽古に入りました。でもあまり考えすぎちゃうとそれがかえって邪魔になることもあるのかなって現場で思ったんですよね。5人が持ってくるものもすごいし、スタッフさんが持ってくるアイデアが面白かったりするんですよ。それが如実にわかったのが『羽州の狐』でした。音響も照明も演出部も周りの人がプロなんですよ。そっちにおまかせしてもいいのかなって。
――敗者に注目したのはどうしてですか?
それはプロデュースチームからご提案があったんです。ただ勝ち負けは関係なく人間の本質的なところを描くというのはどの作品でも変わらないので、脚本を書くムックさん(脚本:赤澤ムック)はいろいろ考えてくださったと思うのですが、自分としては、負け組だからこうしようというのはなくて、ムックさんが書いた本をしっかりと人間として演じることが大事だなと。
いろんなジャンルを持ち寄った時の平均値を大切にしていました。ストレートプレイ、ミュージカル、3.5次元、アクション、いろんなジャンルがあるけれど、そのジャンルにこの台本を放り込んだ時、このキャストでやる時の平均値、真ん中はどこにあるんだろうというのを考えて、かたどっていきました。
――松田さんと前川さんの対談をしたら、3.5次元ミュージカル『ラブミュ☆北の関ケ原』を作った時は平野さんが一番楽しそうだったとおっしゃってました。
そんなことはない(笑)。それは岳(松田)だよ。岳が一番イキイキしてたもん。自分が主役の大谷(『莫逆の友』の主人公・大谷吉継)をやるより、イキイキしてた(笑)。
もちろん楽しかったですけどね。ほかのカンパニーじゃ許されないことをやらせてもらってるから。(3.5次元ミュージカルのパロディ元である)2.5次元は、原作があるけど、3.5次元は架空の作品でコント仕立てなんですよ。以前、ジャンポケさん(ジャングルポケット)やパンサーさんのテニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)を使ったコントを見たことがあるんですけど、ちょっとそれに近い感覚です。2.5次元舞台を題材にしたコントなんです。
――『羽州の狐』についても教えてください。
スピンオフやりたいねって話してて、最初は2本立てにする?って話もあったんですよね。でも結局ストレートプレイを1本作ることになって、僕がぎゅっと詰め込んじゃう癖があるので、作ってみたら上演時間が70分に収まったんです。で、それを発表したら「この値段で70分!?」って、お客様がザワザワして、クレームになったらどうしようって怖かったです(笑)。せめて80分にするか? でも意味もなくダラダラ伸ばしても…って。観ていただいた方には、楽しんでいただけたかなあと思いますが…。
――それだけ密度の濃い作品でした!
1(ワン/『時をかけ・る~LOSER~』第一弾)の時の嶺(木ノ本嶺浩)が主演の『被告人 ヒデトシ』は15分くらいしかないんですよ。でもいっぱい詰まってるから、短いとは全然思わない。いっぱい見たなって気分になるから、もちろん時間は気にしますけど、長すぎるよりは短くても、満足できる作品ならそれでいいって思ってます。
『羽州の狐』は、音響や照明に普通の舞台ではあまりやらないようなプランを入れてるんですよ。「こういうのはどうですか?」って提案した時に、スタッフ陣がみんな面白がってやってくれたんです。テーマをつけた音のシステムで行こうとか、照明も下から当てるのを多めにしたり、普段ではあまりやらないようなことをやりました。それが作品をかたどる上ですごく重要なファクターになった。役者だけでは絶対に辿り着けないのが音と光なので、それが混ざっていい味になりました。
――そのアイデアは以前から?
なんとなくこうかなあとは思っていたんですけど、やはり稽古場で出来上がった部分が大きいです。刀も最初は普通に持っていたほうがいいか悩んでいたんですが、「落語みたいに扇子と手拭いでやったら?」と意見をくださったのはスタッフさんですし、僕も落語をやっていたので「それ面白いですね」って取り入れた。扇子と手拭いをいろんなものに見立ててやったほうがシブゲキ(CBGKシブゲキ!!)というスケールの劇場には合うよねって、作りながらみんなで考えていきました。
最後、安西慎太郎が演じるシャケ様(最上義光)が娘の死骸を抱きしめるシーンも、枝を娘に見立てようなんて稽古中盤くらいで決まったんですよ。それで演出部さんが公園で拾ってきてくれて。「いい枝見つけました」って。みんなのおかげでできました。
『羽州の狐』
――そのスピンオフから1年経って、第二弾が上演されます。
1は手探りで作ったんです。役者のみんなもこんな企画は初めてだったろうし、いろんなことを詰め込みました。2(ツー/第二弾)は全部の作品に全員が出るのではなく、お休みする時間を作ろうかな…と思っているんですけど、作ってみたらどうなるかわかんない(笑)。ちょっといける?とかありそうな気もするし、なんだったらスタッフが出てもいいじゃないですか。演出部が時代劇の格好をしてウロウロしたり(笑)。ま、全員で作っていこうよという気持ちでいます。
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