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Stage INTERVIEW

朗読劇で宝塚の『忠臣蔵』に再び挑む杜けあき。「第三の人生が大石内蔵助で始まる」

元宝塚歌劇団雪組トップスター・杜けあきさんの卒業公演であり、旧宝塚大劇場のラストを飾った『忠臣蔵』が、約32年ぶりによみがえる。大石内蔵助役を懐の深い演技や歌声で表現した杜さんが、懐かしいキャストたちとともに、歌を交えて届ける朗読劇。思い出深い作品に新たに向き合う杜さんに、今の心境をたっぷりと伺った。
(取材・文・撮影/小野寺亜紀)

「内蔵助の奥にあるものを新たに感じられたら」

――杜さんは入団10年目で雪組トップスターに就任され、1992年~1993年上演のグランド・ミュージカル『忠臣蔵~花に散り雪に散り~』が卒業公演となりました。

当時33歳の私に45歳の大石内蔵助役が回ってきたのですが、自分でも違和感なくやれていました。それはアンドレ(『ベルサイユのばら』)やギャツビー(『華麗なるギャツビー』)を経たから演じられたとも思っていますし、男役の集大成となる最高のお役でした。宝塚時代に演じた役は、私の細胞の中に存在し、呼び起こすとすぐに出てきてくれる感覚があって……。それぐらい“青春時代に心血を注いだ良き人物たち”という思いがあり、特に大石内蔵助はサヨナラ公演だったので一番瑞々しく残っています。

――プロローグで討ち入り装束の赤穂浪士たちが大階段を下りてくる様子など圧巻でした。

私たちは自分で見ることはできなかったけれど、テレビで放送されているのを見たとき、男役の黒燕尾と遜色ないぐらいの素晴らしい場面になっていて、「こんなに美しいんだ!」「日本物でこういう場面が作れてすごい!」と、鳥肌が立ちました。

――宝塚歌劇の名作と謳われながらこれまで再演はなく、2025年に朗読劇として杜さんの主演で上演が決まりましたが、今の思いは?

32年ぶりに大石内蔵助にまた出会えることになり、感慨もひとしおです。天国にいらっしゃる柴田侑宏先生(作・演出/2019年没)も喜んでくださっているだろうなと思います。私にとって宝物のような作品。そして、目を悪くされていた柴田先生にとっても集大成だったというお話を、先生が亡くなられる1年前、私のラジオ番組に出演してくださったときにおっしゃっていて感動しました。いつか宝塚歌劇団で再演してほしいと思い続けてきましたが、まさか私がやることになるとは……! この舞台のお話が決まったとき、天国の柴田先生に「いよいよやりますよ……それも私が」とお伝えしました(笑)。

――本懐を遂げたあと、最後に花道で大石内蔵助が言う名台詞、「もはやこれで思い残すことはござらん」も、また聞けるのでしょうか?

この台詞がないわけにはいかないですよね(笑)。当時、旧宝塚大劇場の最後を締める公演でもあり、宝塚への想いや雪組への想い、内蔵助の想いが重なった感情を、取りこぼすことなく語った台詞が、「これで思い残すことはござらん」でした。

実はその台詞を言った後、柴田先生がほぼ毎日、花道の奥にいらっしゃったんですよ。“関所”と呼んでいたのですが、私があの台詞の後、早替わりのため走り出す一瞬に、「今日はダメだった」「今日は良かった」「今日は泣きすぎ」とか、毎回ひと言おっしゃってくださったのが、いい思い出になっています。先生の作品への愛を感じ、千秋楽まで一緒に作り上げた思いでした。

――ほかに柴田先生との思い出やエピソードはありますか?

先ほどお話ししたラジオ番組で、柴田先生がアナウンサーの方に「杜けあきさんの第一印象は?」と訊かれて、「この人は……女性です」とおっしゃったことに驚きました。これは持論なんですけど、宝塚の男役を極めるには女性としての思いがすごく大切で、その部分があるからこそ自分の理想とする究極の男役像を表現できると。どちらかというと女性っぽい私が、宝塚で男役を経験していくうちに役から学び、人間形成もなされて、竹を割ったような性格が加わっていったように思います。

――大石内蔵助という役の魅力を、どんなところに感じますか?

先ほど「男役の集大成」とお話ししましたけど、内蔵助には統率力や聡明さ、ブレない芯があり、それにプラス男のかわいさがあります。凡庸として捉えどころがなく「女性は探りたくなるよね」と思う魅力があると思います。やはり“宝塚の内蔵助”でしたから、美しく理想的に描かれていますよね。今回朗読劇として再演するにあたり、台詞はそのままなのですが、内蔵助の奥にあるものを私自身新たに感じられたら、柴田先生が本当に言ってほしかった「思い残すことはござらん」に、めぐり合えるかもしれない、という気がします。やはり内蔵助も逃げたいときだってあったはず。でも当時の私は若かったので、そこまで感じながら演じられていなかったな、と思う部分があります。

――朗読劇『忠臣蔵』では歌も歌われるとお聞きしました。

そうなんです。歌詞の中にも、「内蔵助のこんな複雑な思いがあったのか」という、当時の自分では読み取れなかったところもあるので、改めてこの作品の言葉の美しさ、柴田作品の魅力をかみしめられるような気がします。

――今回の上演台本・演出は宝塚歌劇団にも所属されていた荻田浩一さんです。まだ稽古に入られる前とのことですが、楽しみにされていることは?

荻田先生とは、宝塚在団中は全くご一緒していないのですが、「『忠臣蔵』を観ました!」と言ってくださって。やはり柴田先生の大きな作品なので、プレッシャーも感じておられるようなのですが、荻田先生は今の時代を生きている演出家なので、逆にこういうオーソドックスな物語にスピーディさやお洒落な感覚を吹き込んでくださるのでは、と期待しています。テレビのお仕事も含めて色々なタイプのお芝居を手掛けてらっしゃいますし、その豊かな発想に触れるのが楽しみです。ディスカッションをたくさんしながら作り上げられたらと思います。

(次ページへつづく)

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京本大我 舞台掲載号

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