鈴木勝吾
――皆さんが演じられるオーヴィル役について、今どんなふうに感じていますか?
鈴木 ……彼は飛行機作っちゃったし、(3人の中で最後まで)生き残っちゃったし、いろいろ大変だったと思うんですよね。でもね、セリフでも歌詞でも「何回空言うねん」ってくらい「空」って言葉を口にするんですよ。それくらい「空を飛びたい」と思って生きた。それは幸せなことだったんじゃないかなと。
オーヴィルもウィルバーもキャサリンも大変な人生を送っていて、ずっと鳥を見て、空を見て、歯を食いしばって、やってきた。でもそれくらい一生懸命になれることを見つけて、夢を実現するために生きられたってすごいな。現代の人が迷ってるのは、それがないからなんじゃないかなと思うんですよ。最短で生きようとするでしょ。自分に適したものが何かわからないと動けなくて、何もしないまま時間が過ぎてくみたいな人がたくさんいる。
飛行機を作るって、よほどの憧れと推進力、のめり込む力がなくちゃできなくて、そういう場面を今、稽古で歌っていて、しんどく感じる部分はあるんです。でも彼が人生に悩み続けたことと、自分が俳優として悩んでいることは等価じゃなければいけないと思っています。オーヴィルにとっては空で、僕にとっては演劇で、壁に大小はあれど僕にも悩んでいることはあって、そういうところを素直に演じられたらいいなと。まあそれも、この台本を全部覚えられたらの話ですが。
工藤・DION (笑)
鈴木 このインタビューの答えは最終的にそこに帰着する(笑)。
工藤 僕は、ゼロを1にする人間へのリスペクトがすごくあるんです。「先人の思考の蓄積に触れたい」というセリフもあって、完全な0じゃないんですけど、でもライト兄弟は0.00002ぐらいのところから1に起こしたんですよ。そのパワーを台本を読んで感じたし、さち子さんにも感じています。
(鈴木)勝吾さんが言ったみたいに、今の時代は情報が簡単に検索して取り出せますよね。例えばこういうジャンルのダンスを踊りたいって思ったらYouTubeで有名な人たちのダンスをポンっと見られる。そういう基盤が、当時とは違うぞということを今、すごく考えています。そこをオーヴィルの役作りの土台にして、彼の無意識レベルの兄への感情を、憧れなのか、コンプレックスなのか、稽古の中で見つけていけたら。僕は一人っ子なので、兄弟に対しての感覚が乏しくて、試行錯誤していきたいです。
――DIONさん、いかがでしょうか。
DION あの…この二人の後に話すの、超プレッシャーなんですけど…。
鈴木 先に行かないからだよ。俺が話しだす前に、間を与えただろう?(笑)。
DION そういうことですよね。
鈴木 人生はそれだぞ。俺はそれだけで今の事務所受かってるから(笑)。
DION 肝に銘じます。あの、考えることは山ほどあるんですが、自分とオーヴィルの共通点を探していまして、実は彼の幼少期の生活が僕に似通っているんですよ。オーヴィルが凧を作って友達に売るエピソードがあるんですが、僕も小学二年生くらいの頃、アクセサリーを作って、アクセサリー屋さんに置いてもらったことがありまして。
商売がしたいという気持ちはなかったんですが、自分が作ったものに見知らぬ人が価値を感じて百円や二百円のお金を払って買ってくれるってすごいことですよね。価値を見出してもらえたことがうれしかったし、物作りが大好きだったので、オーヴィルの気持ちがわかるなと思いました。
僕も広夢くんと同じで兄弟がいないので、周りの兄弟を見て、兄弟への愛とか執着とか、そういうものを紐解いていけたらと思っています。
――鈴木さんは、ご兄弟は?
鈴木 弟がいます。ただ、兄弟がいないことが、演じる上で強みになることもいっぱいあるんですよ。自分の経験を過信してもいけないし、そうやって二人がいろいろな可能性を探っていく中で、新しいウィルバーとオーヴィル、キャサリンの、ライト兄弟3人の話が出てくると思います。という話を前置きに、僕は今回、ウィルバー役もやるんですけど、僕がウィルバーをやる時は広夢くんがオーヴィルを演じてくれる。どんな形であれ、そこに愛があればいいと僕は思っています。
自分自身の話で言うと、僕は弟にコンプレックスがあるんですよ。だからこそ走れた道もあった。台本では、オーヴィルがウィルバーに憧れる部分が多分にありますが、オーヴィルはオーヴィルで優秀だし、ウィルバーには憧れられている側の人間として、それが推進力になることもあったけど、重荷でもあって、苛まれた日々もあったんじゃないかなと。
そういうことを考えながら、自分自身が兄であるということも一つの可能性として、ウィルバーを演じられたらと思っています。まあそれも、全部覚えられたらの話です。
工藤・DION (笑)
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