「健ちゃんって、本当に人を大事にして、役者業が大好きで、みんなを愛してくれる」
「徹平には、絶対に変えない軸があって、そこがぶれないままどんどん広がってる」
――アイデンティティを問う作品ですが、お二人は、ご自分はどんな人間だと思いますか?
浦井 僕は、自分のことを、自分が一番わかってないんです。だからあっけらかんと役者をやっていられるんじゃないかな。それでも、経験を積めば積むほど、役から学ぶことが増えるし、重みも感じるし、知識も増えてくる。もちろん、人間関係も増えて、それが場数を踏むということだとも思うんですが、そうやって積み重ねていくことが、役者の性(さが)なのかなと最近思っています。
題材も含めて、やりがいのある、深みのある役がんどん増えてきているんですよ。アイデンティティに向き合う役って、いい意味で新たな自分に出会えるチャンス。トライしがいがあります。
小池 僕もいまだに自分自身のことをわかってないです。だからこそ役者として、何にでもなれる。「自分はこういう人間だ」というのがないからこそ飛び込んでいけると思っています。普段出せないような感情を出すのが非常に楽しみで、だから役者をやれてる気がするんですよ。だから「自分はこういう人間だ」って断定するものでもないのかな。それでやってきたし、別にそれで幸せだから、わかってなくていいんじゃないの?って気楽に生きてます。
――お互いのことはどう思っていますか?
小池 「俺ってこういう人間だ」って全部をわかりやすく表に出している人間っていないじゃないですか。わからない部分があるから魅力的に見えたりもする。でも出さなくてもなんとなくわかるんですよね。人当たりはいいけど、本当はどうかなあとか。で、健ちゃんってまんまなんですよ。本当に人を大事にして、職人のように役者業が大好きで、みんなを愛してくれる。もしかしたら本当は見せてない部分があるのかもしれないけど、僕はそれはどうでもいい。わかる?
浦井 わかるわかる。
小池 知らなくていいんです。ブラック健ちゃんがいようが。
浦井 (笑)。僕は徹平はどれだけの取材を受けてきたんだよと思うんですよ。
小池 ? どういうこと?
浦井 これまで取材でたくさん自分のことを語ってきているじゃないですか。
小池 それは一緒じゃん。
浦井 そうなんだけど、トータルしたらとんでもなく長い時間をインタビューとかで語っているのに、ずっと、自分の人生を楽しんでいる感じがする。自分の軸を絶対ぶらすことがない。
小池 おお。
浦井 環境や人が変わってもぶれない信念を持ってるんだなって、最近わかったんだよね。何かのときに海に亀を見に行った時の写真を見せてくれたでしょ。些細なことかもしれないけど、どんな時にも明るい徹平がいる。徹平には絶対に変えない軸があって、そこがぶれないままどんどん広がってる感じ。そういう自然体の徹平を世間の人たちが愛してる。
小池 まあ、僕は、変わらないからね。
浦井健治
――浦井さんはほかのお仕事の関係で稽古に遅れて合流されたとのことですが、あらためて、お互いについて思ったことは?
小池 「すごいな。この人化け物だな」と思いました。戻ってきて、数日であっという間に1幕のあら通しをやってのけちゃうんですよ。新作でここまでできるのありえないですから。しかも口に出して「大変だった」って言わないんですよ。もっと言っていいのに。きっと地方公演のホテルとかで、本番を終えて疲れて帰ってきてからめちゃくちゃ勉強したりしているはず。毎日100%稽古に時間を費やしている僕らでさえ、間違えるし覚えられないのに。すごいな。
浦井 まぐれです(笑)。
小池 語彙力ない言い方すると、浦井健治、ヤバいです(笑)。
浦井 実際は、皆さんに追いつけるようにやらなきゃって思いでいっぱいなんですけど、そういうときにも自分の異変を察して、稽古場で「おいしいもの食べておいでよ」とか言ってくれる。徹平って人のことをすごい見てるんですよね。
徹平だけじゃなく、今回の共演者は第一線で活躍されている方が多いので、今必要な言葉を口にしなくてもわかってくれる。徹平の明るさも含めて、人間味あふれる稽古場です。戻ってきた時にはキャストさんも、スタッフさんも「おかえり」って迎えてくれました。いろいろと教えてくれて、本当に家族のような存在です。信頼もあるし、この人たちとやれるんだという気持ちで、自分を奮い立たせることができています。
小池 日々台本に変更があるので、修正をしながら稽古をしているんです。演出家や役者たちみんなで「ここはどうしようか」と話し合う機会が最近増えてきました。そんな稽古場に、健ちゃんが戻ってきて「お父さんがようやく戻ってきてくれた!」という感じです。稽古場がより引き締まりました。
浦井 演出家さんにもいろんな方がいて、明確に「こういうことがしたいから」と示して演出される方もいますが、瀬戸山(美咲)さんはご自身のビジョンもありつつ、皆さんの意見を取り入れながら話し合いをしながら進められてますね。
小池徹平
――楽曲の印象は?
浦井 ジェイソンさんならではのカッコよさがあって、力を感じる楽曲が揃っています。それぞれの役に寄り添った色彩豊かな曲が多いですね。
小池 当初思っていたより楽曲の数が多いんですよ。ディスカッションを重ねるうちにリプライズとして楽曲になったり、ミュージカルだからこその歌のパワーと演劇的な芝居の部分のバランスをしっかり表現していきたいと思っています。
――演出の瀬戸山さんの印象はいかがですか?
浦井 瀬戸山さんと初めましてで、まだ期間も短いですが、日々変更があるので、頭をフル回転させて演出されている姿が、素敵だなと思いますし、全てを統括する大変な作業をされています。
小池 原作がとても濃厚な物語なので、原作が好きでリスペクトしているからこそ、ミュージカルの中で詰め込まなきゃいけないもの、省かないといけないものを模索していらっしゃるんだろうなあと思います。今はこういうふうにやりたいというイメージを外枠から固められていて、その枠組みができてからしっかり芯の部分を作っていこうとされているんじゃないかな。
今回のミュージカルのXに関して、楽曲の中でどう表現をしていくか瀬戸山さんと僕とそれぞれの感覚をもっているので、どう曲の中で芝居を成立させていくかその感覚のすり合わせ作業をしています。ここからどんどん固まってくるのかなと思います。
――『ある男』は、愛した人の過去が偽物だったということも大きなテーマの一つですが、愛に過去は必要だと思いますか?
小池 それなんですよね。嘘を語って、何を愛したんでしょうという……。でも何回も愛し合うんじゃないでしょうか。一緒にいるといい部分も悪い部分も見えてくるけど、それでも一緒にいようと努力しますよね。何度も悪いものもいいものも見て、また愛し合っての繰り返し。過去は大きいことですけど、それが嘘だったと知って傷つきはしても、今までその人を愛してきたことがなくなるわけじゃないから、乗り越えて、また愛していく。そういうのが大事なんじゃないかな。
――嘘があっても愛せる?
浦井 それが作品のテーマですよね。
小池 嘘の内容によりますけどね。
浦井 「人は変わっていくから」というセリフがあるんですけど、そういうことですよね。それは原作でも今回の舞台でも描かれていること。それによって自分たちが愛を学んで、どう感じるか問いかける内容になっていると思います。
小池 小説では感じられないような歌から入ってくるパワーってあると思うので、それを僕たちミュージカルをやってきた表現者がどう皆さまに伝えるのか、楽しみにしていただければと思います。
ミュージカル『ある男』は、8月4日(月)から東京・東京建物 Brillia HALLにて上演されます。詳細は下記公式サイトにてご確認ください。
https://horipro-stage.jp/stage/aman2025/