(取材・文/小野寺亜紀、舞台写真/上原タカシ)
「ストレートプレイはこんなにおもしろいのか!」
――本作はアカデミー賞7部門を受賞した同名映画(1998年米国/1999年日本公開)をベースに、2014年に英国で舞台化。2018年に劇団四季が新たな脚本・演出で上演し、好評を博しました。映画版と舞台版の大きな違いは、どういったところでしょう?
舞台はグローブ座を模したセットになっていて、それを人力で動かしながら音楽とともに演出が進んでいきます。そういう舞台ならではの巧みな構成は、やはり迫力があります。僕は初演の東京公演を観て、ぜひこの作品にかかわりたいと思っていたので、今回出演できてとてもうれしいです。
――「かかわりたい」と思われた大きな理由は?
劇団にいながらストレートプレイをあまり多く観てこなかったこともあり、最初は客席で身構えていたのですが、「ストレートプレイはこんなにおもしろいのか!」「言葉が楽しく、演じている人たちが生き生きしていて、すごくいいな」と感じたんです。ウィルを演じてみたいと思ったのはもちろん、この作品自体にかかわりたいと思いました。
――イギリス演劇が大きく発展したエリザベス朝時代のロンドンを舞台にした本作、武藤さんが感じる作品の魅力は?
「ウィリアム・シェイクスピアが、もしもこうだったら――」というフィクションの作品なのですが、そのなかには彼自身の人生や、史実を踏まえた当時の劇場文化がリアルに描かれています。演劇が生まれていく瞬間を、お客様がのぞいているような感覚にもなれるお芝居。シェイクスピアの美しい言葉を織り交ぜつつ、コメディ要素が豊富に含まれていて、テンポが軽快。ストレートプレイに慣れていないお客様も、楽しんでいただける作品だと思います。
――演じられるウィル役について教えてください。
『ロミオとジュリエット』や『ハムレット』を生み出した劇作家、ウィリアム・シェイクスピアがモデルの人物です。名作を生み出す才能がありながら、作品の冒頭ではスランプに陥り、言葉を失っている状態。そんな彼がヴァイオラという女性に恋をし、再び言葉や演劇への情熱を取り戻していきます。才能だけでなく、弱さや迷い、葛藤、衝動などを抱え、とても人間くさい一面があります。
――昨年11月開幕の東京公演から出演されていますが、稽古期間や上演中の舞台を振り返っていかがですか。
稽古期間は徹底的に言葉と向き合う時間でした。ミュージカルナンバーのないストレートプレイなので、言葉がすべて。ひと言ひと言をどう立ち上げていくのか、演出家の青木豪さんと丁寧に探っていきました。外部の演出家である青木さんとは初めてご一緒したのですが、役者一人ひとりに演出をつけてくださり、僕たちがそれぞれ応えていくという稽古場が、刺激的で楽しかったです。
――特に印象に残っていることは?
ウィルがヴァイオラに詩を送るバルコニーのシーンがあるのですが、そこでコメディ要素を踏まえながら演出をつけてくださる過程が楽しくて。ウィルとヴァイオラ、もうひとり劇作家のクリストファー・マーロウという人物3人で、動きながら演出を受けたのですが、言葉と感情、みんなの行動が自然に繋がっていく感覚があり、新しい発見になりました。
――東京公演が開幕してからの手応えなど教えてください。
公演をしていくなかで、お客様の笑いどころや息遣い、静まり返る瞬間などを感じます。この作品自体、演劇をみんなで作り上げる物語なのですが、まさにその場で芝居が生まれる空気感を、お客様と共有している感覚があり、とても幸せです。

クライマックスの劇中劇で不思議な感覚に
――ヒロインのヴァイオラとウィルの関係性は、最初から入り組んでいておもしろいですよね。
そうですね。当時は女性が舞台に立つことは許されていない時代。ヴァイオラは演劇が好きだから、舞台に立ちたいという一心で、男装をしてオーディションにやってきます。そこで彼女が発する低い声の台詞など、ゾクゾクしますね(笑)。本当に魅力的なヒロインです。彼女は詩が好きという聡明さ、恋に焦がれる可愛らしさなど多面的な魅力があり、だからこそお客様も感情移入できる人物だと思います。
――ヴァイオラ役の方と大切にしていることや、好きな場面を教えてください。
ふたりは恋に落ちるのですが、本当にその場でお芝居が生まれていく感覚を、板の上で共有できるようにお互い意識しています。好きな場面は、先ほどお伝えしたバルコニーのシーンもそうですが、2幕の最後『ロミオとジュリエット』をウィルとヴァイオラで演じるシーンです。
劇中劇がふたりの関係と重なっていく、とても美しい構成になっていて、(ロミオとジュリエットが)ウィルとヴァイオラ自身に重なり、どっちがどっちかわからなくなる。演じていても不思議な感覚になっていき、ロマンチックでもあり切なくもある、すごく好きなシーンですね。
――劇団四季では7年ぶりの再演ですが、初演とは違う新しい要素もあるのでしょうか。
台本や大まかな演出は変わらないのですが、俳優が変わったことで、青木さんがそれぞれに合った演出をつけてくださり、空気が一新されています。青木さんは最初の稽古のとき、「新しく、軽快に、より深く作っていきたい」とお話をされて、実際その通りになっていると思います。
――本作の原作映画にかかわられたトム・ストッパード氏は、『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』など数々の戯曲を手掛けられた劇作家ですが、昨年11月にご逝去の報がありました。あらためて氏の才能をどのように感じていますか?
映画を観たとき、史実とシェイクスピアの言葉が巧く重なっている脚本の構成力に、美しさを感じました。この作品の根幹にあるのが、“言葉の力”や“演劇への愛”。それは間違いなくトム・ストッパード氏が遺してくださったもので、東京公演中にストッパード氏の訃報に触れて大変残念な思いでした。けれど、多くの素晴らしい作品を手がけられたストッパード氏の世界に、間接的にでもかかわれて本当に光栄に思います。

京都公演での楽しみはカフェ巡り
――武藤さんは劇団四季研究所入所から10年目となりますが、“演じる”ことへの今の思いをお聞かせください。
僕は本当に芝居が好きなんです。幼いころからずっと内向的な性格で、人に合わせながら自分の気持ちを内に秘めることが多かった。芝居に関わって10年ほど経ち、さまざまな役を演じるなかで、ため込んできた感情が、役とともに浄化されるような感覚を覚えます。芝居をしていると自分を解放でき、考え方も明るく前向きになるので、“演じる”ことは、とても特別なものです。
――ストレートプレイは本作が初めてだそうですが、どのように取り組まれましたか?
恥ずかしながら、俳優をしているのにシェイクスピアの戯曲にこれまで深く関わることはなかったんですね。この作品にはシェイクスピアの言葉がうまく織り交ぜられていて。なぜこのシーンでこの言葉が使われているのか、と言葉を深めるために戯曲を読み返したり、歴史的な背景を調べたりしました。
現代では聞き慣れない言葉も多く、俳優の自分が難しさを感じるなら、お客様はなおさらだと思いました。だからこそ、その言葉を自分の中に落とし込み、身体と声を通してダイレクトに届けられるよう、繰り返し台本に向き合いました。
――ミュージカルファンも楽しめそうでしょうか?
「歌がなくて大丈夫かな」と心配されるかもしれないのですが、この作品には男性4人の四重唱、楽士たちのコーラスがあり、それがとても美しいんです。そのコーラスが挟まることで、ストレートプレイですが軽やかで観やすくなっています。また、笑いどころも多いです。シェイクスピアの美しい言葉は、きっと調べてみたくなると思いますし、シェイクスピアやストレートプレイを知るきっかけとして、ちょうどいい作品。物語が進むにつれてさらに没入できると思うので、ぜひ楽しんでいただきたいです。
――約7年半ぶりとなる『恋におちたシェイクスピア』京都公演に向けて、意気込みをお願いします。
四季の原点であるストレートプレイを、東京だけではなく、京都のお客様にもお届けできるのは、とても光栄です。人を愛する喜びや、演劇への愛、情熱をより深くお届けしたいです。
――オフの日の過ごし方は、何か考えていますか?
僕は毎日自分で豆を挽いて淹れるほど、コーヒーが好きなんです。調べてみると、京都には行きたくなるカフェがたくさんあるので、1日に3、4軒は回りたいですね!

劇団四季『恋におちたシェイクスピア』
東京公演/2025年11月23日(日・祝)~2026年2月8日(日) 自由劇場
京都公演/2026年4月25日(土)~2026年5月24日(日) 京都劇場
翻訳:松岡和子
演出:青木 豪
作曲・音楽監督:笠松泰洋
原作映画脚本:マーク・ノーマン トム・ストッパード
台本:リー・ホール
SHIKI ON-LINE TICKET http://489444.com

