自分を知ることは大切。自分は何が好きか、どんな人間かを知らないと、行きたい方向に向かっていけない。
――岡本さんは2018年に留学。ニューヨークの演劇学校(アメリカン・アカデミー・オブ・ドラマティック・アーツ)に通い、帰国後は『Le Fils 息子』(2024年)『盗まれた雷撃』(2022年)など数々の舞台に出演していらっしゃいます。お芝居はどうやって磨いていくものなのでしょうか。
僕はまだ俳優としては経験が浅いので、偉そうに語れることはないのですが…。自分は天才じゃないんですよね。感覚でバーっとできる人間じゃない。だからいろんなものを見ることが大事だというふうに思っています。気になったものはなんでも見る。映画も舞台もドラマも見ますし、特に「絶対見るべき」だと言われていたのがドキュメンタリーです。個人的にも好きで、よく見ています。ドキュメンタリーには演じていない人間が映っているので、そこにどれだけ近づけるかが演技の肝だと思います。
人と触れ合うことも大事です。人間を演じるのなら日頃から人間と会話をしていないといけない。それから、自分を知ることも大切。自分は何が好きか、どんな人間かを知らないと、行きたい方向に向かっていけないので。
学校では「人体学」なども勉強していました。人間の本来の姿勢とか、現代人のクセとかってあるんですよ。現代に生きていると、携帯やパソコンを触ったり、テレビを見たりして、首が前傾姿勢になってるとか、靴が普及する前の草履を履いていた日本人の歩き方は、今の歩き方とはちょっと違っていたとか。そういうことを学んで、芝居に生かしています。
それから呼吸法ですね。セリフを多くの人に届けるための呼吸法を実践していますし、ジムに通って、いい姿勢を保てるように筋肉をつけたりもしています。ワークショップにも行きます。この夏は2か月で5、6個のワークショップに通いました。
――日頃からそうやって鍛えていらっしゃるのですね。
台本がない時は、そうですね。台本を頂いたら「プレパレーション」、準備をすることが大事だと、海外の俳優さんたちはよく言っています。歴史だったり、自分が演じるのがどんな人物なのか、どこに住んでいるのか、何を求めているのか、どんなものが好きか、趣味や特技は何か、そういうことを調べて、考えて、自分の中でしっかりと作っていくこと。これはすごく重要です。意外にいろいろ語れることが出てきました(笑)。
――作品が決まってから稽古場での稽古以前に、やることがたくさんあるんですね。
そうですね。やっていかないと。でももちろん普通の人生を送るってこともすごく重要なんです。「センサリーワーク」というのがあって、これはつまり五感を強めることなんですけど、ごはんを食べて「おいしいな」と思ったり、お風呂に入って「気持ちがいいな」、友達と会って「楽しいな」って感じたり。もちろんネガティブな感情、例えば「イライラするな」とかもちゃんと受け入れて、感じる。
一時期やっていたんですが、ペットボトルを持って、このくらいの重さがあるのか、冷たさはこれくらいかと意識する。それからペットボトルを置いて、持っている時と同じように筋肉を使ってエアで持ち上げてみる。それができたら、どうやって飲むんだろうと考えて、持っていない状態で、重さや冷たさを感じながらキャップを開けてみる。そういうことを真面目にやっていました。
――日常の全てが芝居につながっているのですね。目標にしてる俳優さんはいますか?
目標というか、個人的に大好きな俳優はアンドリュー・スコット。最近で言うと、ナショナル・シアター・ライブ(主にロイヤル・ナショナル・シアターの上演作品を、映画館等でライブ中継で上映する企画。日本では収録したものを後日上映している)で観た『ワーニャ』という一人芝居に、もう感動しちゃって! 一人で何役も演じる表現力が素晴らしくて、人間、こんなことができるんだと思いました。
僕はロバート・アイクが演出した『ハムレット』が、今までに観たシェイクスピア作品の中で一番好きなんですが、それにも出演しています。海外の俳優さん、すごい方がたくさんいらっしゃいますよね。
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