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Stage INTERVIEW

松下洸平が、こまつ座『闇に咲く花』に挑む

「一番暑い時期に、この熱い舞台をお届けできるのがすごく嬉しい」

戦後の混乱のなかで生き抜く庶民の生活を描いた、こまつ座第147回公演『闇に咲く花』で、井上ひさし氏の戯曲に初めて挑む松下洸平さん。焼跡に舞い戻った伝説のエース投手・牛木健太郎役を通して、井上氏が紡いだ言葉、メッセージを真摯に届けようと台本に向き合っている。何度も再演を重ねる名作に、どのような思いで臨むのか。松下さんに意気込みを伺った。
(取材・文/小野寺亜紀 撮影/高村直希、小野寺亜紀(背景水色写真))

1987年に初演された井上ひさし氏の「昭和庶民伝三部作」の第二弾、『闇に咲く花』がこの夏再演されている(8月4日(金)~8月30日(水)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA、9月6日(水)~9月10日(日)新歌舞伎座 他)。空襲で焼け落ち廃屋になりつつある、東京・神田の愛敬稲荷神社。神主・牛木公麿(山西惇)の一人息子・健太郎(松下洸平)が帰還し、故郷の人たちと再会を喜び合ったのもつかの間、戦犯容疑にかけられ再び記憶障害に陥る。

「健太郎は戦争を体験してその後アメリカで捕虜となり、記憶を失って終戦から2年近く、故郷の東京に戻ることができなかったのですが、アメリカで野球を通して記憶が呼び起こされ、愛敬稲荷神社に帰ってきます。健太郎はとても明るく、自分の意思をしっかり持った、野球が大好きな青年。彼が抱いている争いに対する怒りと、自分の生まれ育った神社を思う痛いくらいの優しさが、僕にどこまで出せるかが重要なのではと思っています」と、役について分析する。

今の時代にこそ改めて考えたい戦争責任など、重厚なテーマが懐かしいギターの音色とともに描かれる名作。「僕は戦争を知らない世代なので、映像で観たり本で読むことでしか想像できないのですが、この台本でC級戦犯の悲惨さについて新たに知ることも多く、当時の日本人たちはこういうことにも苦しめられていたんだと思うと、胸が痛くなりました。これだけ長く再演を重ねているということは、伝えなければいけない何かを抱えているからだと思います」。

台本を読み、「井上さんの想いが詰まったひと言ひと言」をかみしめつつ、「コミカルなところは存分にコミカルで、ゲラゲラ笑ったりもした」という松下さん。舞台俳優を始めた頃、初めて井上さん戯曲の舞台『きらめく星座』を観たときから、「井上さんは悲しいことを明るく書く劇作家さん」と感じた。だからこそ「どんな資料を見るよりも、戦争というものを知らなければという気持ちが芽生えます。先日『きらめく星座』を再演で久しぶりに観たのですが、全く同じことを思いました」と打ち明ける。

こまつ座の公演にはこれまで『母と暮せば』(井上ひさし原案)に出演し、「第26回読売演劇大賞」杉村春子賞・優秀男優賞、「平成30年度(第73回)文化庁芸術祭」演劇部門新人賞を受賞。こまつ座の『木の上の軍隊』にも二度出演したが、井上さん自身の戯曲には初挑戦となる。「とても緊張していて、台本を頂いてもなかなかページを開く勇気が出なかった。生半可な気持ちではトライできない、大事な作品です。『闇に咲く花』は1987年に初演され、それから何度も再演を繰り返してきました。そのバトンが自分のところに回ってきたのだと思うと身が引き締まりますし、精一杯努めなければと思います」と述べ、覚悟の大きさを感じさせる。

演出は『木の上の軍隊』『母と暮せば』や、ミュージカル『スリル・ミー』など多くの作品で組んできた栗山民也さん。「栗山さんはお会いするたびに、『いつか井上ひさしさんの戯曲をやってほしい』と仰ってくださっていました。僕にとっても夢だったその願いが叶い、すごく嬉しいです。栗山さんは初日の幕が開く直前まで、本当に細かいところまでこだわって作られるんです。時々稽古場で、『洸平違う! その台詞はこうだ』と実際に台詞を言ってくださるのですが、それがとても上手くて、栗山さんが演じればいいのになと思うときがあるんですけど(笑)、それぐらい“どうすべきか”というのが明確なんです。だから僕たちは、稽古の間にどこまで栗山さんの頭の中に入っていけるか、だと思います」。

健太郎は伝説のエース投手だが、松下さん自身は球技が苦手で、健太郎の野球仲間だった稲垣善治役を演じる浅利陽介さんに、ポスター撮影でボールの持ち方を教えてもらったという。「浅利くんは野球やバスケットボールが上手なんです。投球のシーンはないのですが、稽古場では台詞の確認をする前に、まず浅利くんとキャッチボールをするのが日課になると思います」と笑顔で語る。

「一番暑い時期に、このこまつ座の熱い舞台をお届けできるのがすごく嬉しいです。僕自身、この作品を読みながら、当時の日本について勉強させていただいている部分もあるので、普段演劇に触れない方にもぜひご覧いただいて、僕たちが渡す小さなバトンを、そっとカバンの中に入れて、誰かに渡していただきたいです。そうやって伝え続けていくことが、演劇の大切なところで、僕たちがやる意味はそこにあると思います」。松下さんの真っ直ぐな想いが、きっと大勢の観客に伝わるはず。

 

こまつ座第147回公演『闇に咲く花』

東京公演/2023年8月4日(金)~8月30日(水)紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
愛知公演/2023年9月2日(土)~9月3日(日)東海市芸術劇場
大阪公演/2023年9月6日(水)~9月10日(日)新歌舞伎座
福岡公演/2023年9月12日(火)~9月13日(木)キャナルシティ劇場

作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:山西惇 松下洸平 浅利陽介 尾上寛之 田中茂弘 阿岐之将一 水村直也(ギター)/
増子倭文江 枝元萌 占部房子 尾身美詞 伊藤安那 塚瀬香名子

公式HP http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#444

あのときの感動を、お手元に。
オモシィプレスVOL.3& VOL.17 バックナンバー
京本大我 舞台掲載号

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