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劇団四季『ゴースト&レディ』大阪公演レポート&スコット・シュワルツ氏が熱く語る!

2024年5月に東京で初演の幕が開き、続く名古屋公演も熱い支持を集めた、劇団四季オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』。12月7日に、初の大阪公演が開幕した(2026年5月17日まで上演)。藤田和日郎氏の人気漫画「黒博物館 ゴーストアンドレディ」を原作に、才気溢れるクリエイターの力を結集した渾身のオリジナルミュージカル。演出は『ノートルダムの鐘』で、劇団四季と強固な信頼を築いたスコット・シュワルツ氏。彼が大阪公演初日直前におこなった合同取材会と、壮大な舞台の模様をレポートする。
(取材・文/小野寺亜紀、舞台写真/野田正明)

ナイチンゲールとシアター・ゴーストの深い絆、劇団四季『ゴースト&レディ』

 ロンドンのドルーリー・レーン劇場に出没すると言われる幽霊「灰色の服の男」をモデルにした、シアター・ゴーストのグレイ。生前は決闘代理人だった彼に、「私を殺してほしい」と、フロー(フローレンス・ナイチンゲール)が願い出るところから、この物語は大きく動き出す――。

 藤田和日郎氏の中編コミックス「黒博物館 ゴーストアンドレディ」(講談社「モーニング」)が原作の、劇団四季オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』。ファンタジーと史実を絶妙に織り交ぜた本作は、すでに東京、名古屋でチケット完売続出の人気を集め、12月に開幕した大阪公演も観客に熱狂的に迎えられた。

 本作の面白さは、冒頭の演出から始まっている。「え!?」と目を疑うようなイリュージョン。このような驚きが、そのあと何度も出てくるので、オペラグラスでのぞいていると、見逃すかもしれず要注意!

 19世紀に近代看護の礎を築いたナイチンゲール(フロー)。彼女が有名になる前、生きる意味を見失い、劇場にたたずんでいるところから始まるのが、まず興味深い。死の淵をさまよっているかのような表情の彼女がグレイと出会い、「私には使命がある」と強い信念を胸に看護の道へ突き進む。その姿は眩しく、彼女が手にするオイルランプのように、温かく周囲を包み込んでいく。死を迎える最期の瞬間まで穏やかでいられるような、不思議な感覚を覚えるのも、この作品の奥深さだ。一方で、フローもまたひとりの人間であり、迷い、苦しむ姿が描かれるからこそ、多くの共感を呼ぶ。

 劣悪な環境のスクタリ陸軍野戦病院に赴いたフローは、やがて「クリミアの天使」と呼ばれる存在になる。彼女の崇高な志は、高音域を生かした歌唱や力強いメロディーにも刻み込まれている。どれも心に残る名曲だが、とりわけ終盤の「偽善者と呼ばれても」で響く、パワーに満ちた歌声は圧巻。過去のしがらみを断ち切り、自ら信じる道が未来へと続くことを願うフローの強い想い。観客一人ひとりの背中を押してくれる、偉大なメッセージ性を持っている。

 フローに、「絶望の底に落ちたときに殺す」と約束したグレイは、いわゆる死神的な存在というより、彼女と運命を共にするバディのよう。どこかチャーミングで、観ていてときおりクスッと笑いがもれるほど。フローが厳しい家庭環境から抜け出し、看護の道へと突き進んだように、グレイもまた100年以上棲みついた劇場から飛び出し、フローと時間をともにする。

 そんなグレイは、最初皮肉をもって見つめていたフローに、どんどん惹かれてゆくのが伝わってくる。愛よりも深い、魂と魂で強く結ばれているようなふたりが歌う「不思議な絆」。出会ってからの関係性が鮮明に浮かび上がり、想いの深さと切なさに心が揺り動かされる。

 ふたりの行く先には、フローの活躍に憎悪を募らせるジョン・ホール軍医長官や、ホールにとりつき彼の命を受けてフローを狙う、眉目秀麗なゴースト、デオン・ド・ボーモンという存在が立ちふさがる。この個性的なキャラクターの登場で、壮大なアドベンチャー映画のようなワクワク感が高まり、迫力ある殺陣には手に汗握る。ホールとデオンにも、自身の生い立ちや想いを明かすナンバーがあり、これも聴きどころとなっている。

 また芝居好きのグレイが観てきたシェイクスピア作品の世界や、イギリス伝承童話「マザーグース」のエッセンスも盛り込まれ、舞台を盛り上げる。フローに求婚するアレックス、看護団の一員でフローに憧れるエイミー、キーパーソンのひとりとも言える17歳の傷病兵・ボブなど、さまざまなキャラクターが物語に奥行きを与えていた。

 舞台上では、ドルーリー・レーン劇場に迷い込んだような豪華なセットが、一瞬で馬車や屋敷に転換。また、キャラクターの感情の流れがわかりやすい高橋知伽江さんの脚本と歌詞。ケルト音楽的な旋律などバラエティー豊かで、海外ミュージカルのような重厚さがある富貴晴美さんの音楽など――。劇団四季が総力を結集して取り組んだのが伝わるクオリティーの高さだ。ちなみに高橋さんと、美術の松井るみさんは劇団四季のOG。これまでの素晴らしいキャリアが必然的にこのオリジナルミュージカルに結び付いたのでは、と胸が熱くなる。

 さらに台詞の間にある旋律の緩急まで心地良いのは、演出のスコット・シュワルツ氏のなせる業。まさに『ノートルダムの鐘』を思わせる、舞台運びのテンポ感と深い余韻がある。これだけ見応えのある作品が誕生したからには、世界へと放たれる日が来るかもしれない。そしていつかドルーリー・レーン劇場で上演される日がきたら……シアター・ゴースト(グレイ)は大喜びに違いない!

スコット・シュワルツ氏が取材会で語った作品への想い

 12月5日、最終通し舞台稽古後に、演出のスコット・シュワルツ氏が合同取材会をおこない、作品の魅力やキャラクターの解釈など、溢れる想いを語った。

 スコット氏は原作者の藤田和日郎氏について、「稽古に何度も来ていただき、本番も何度も観ていただいた。本作を創るにあたり、プロセスの一員として参加してくださったと感じています。作品を創り上げるなかで背中を押してくださり、光栄に思いました」と、敬意を示す。

 原作の漫画をリスペクトしているスコット氏。「予測不能な筋立てで進み、それぞれのキャラクターが立っている、非常にワクワクする物語」であったからこそ、「この壮大な物語をどうやって舞台化していくか、スリリングな日々でした」と告白。「漫画のひとコマひとコマがアートのようであり、非常に美しくてドラマティック。原作の味わいをどう捉えて舞台化するか」を考え、「漫画でもこういうシーンがあったなと、観客の方が思い起こせる場面も盛り込んでいます」と明かした。

 さらに漫画の再現にとどまらず、原作のスピリットを大切にしながら、いかにシアトリカルな形で、心の琴線に触れるものを創るか、にこだわったという。「この舞台には、(舞台版)オリジナルの大事なキャラクターとして、エイミーとアレックスが存在します。また、漫画とはキャラクター性に少し変更を加えている人物もいます。舞台は舞台として、独自の物語として仕上がっていると思いますので、原作を知っている方にも、原作を知らない方にも、楽しんでいただけるといいですね」と、確かな自信をのぞかせた。

 また原作を読みながら、「感情が高ぶり、羽ばたくということを感じた」とも。だからこそ「音楽が必要であり、原作が“歌っている”と感じました。歌がなければ、これだけの“パッション”や“愛”を伝えられないと思ったんです」と話し、原作から得たインスピレーションが、舞台化への大きな原動力となったのが伝わってきた。

核にあるのはラブストーリー

「この作品はいろいろなスタイルが混じり合っているところが魅力です。核にあるのはラブストーリーだと思っていますが、ワイルドなアドベンチャーもあり、マジックやゴーストも登場します。さらに史実が織り交ぜられ、さまざまな要素が組み合わさって、素晴らしい作品になっています」

 歴史的に有名なナイチンゲールが、幻想的な存在であるゴーストと恋に落ちる物語を演出することは、スコット氏にとって「喜びでもあり、チャレンジでもあった」という。

「ゴーストには、壁を抜けることができる、(宙を)飛ぶことができるというルールがあります。さらに我々の中で決めたルールが、人間とゴーストはお互いに触れ合うことができないということ。そのなかでいかに情熱溢れるラブストーリーにしていくかを、考えた稽古期間でした」と振り返る。「一線を越えられないけれど、精神的にいかにふたりが繋がっていくか。その世界観をどう表現するかを考えながら演出していきました」。

 特にお気に入りのシーンを問われると、「1幕でフローが看護婦たちとクリミアへ出発するシーン(「走る雲を追いかけて」)は、富貴(晴美)さんが素晴らしいメロディーを書いてくださり、インスピレーションを得られる場面です」と回答。

 2幕でグレイが自身の過去を語るシーンも挙げ、「酒場でのダンスは、エネルギッシュでありながらロマンティックで、お気に入りです」と打ち明ける。さらに、「グレイとフローのロマンティックなシーンはたくさんありますが、ネタバレになってしまうのでここでは控えます」と、にこやかな笑みを浮かべながら付け加えた。

初演より深まってきたところ、大阪公演への期待

 大阪での舞台稽古を観てスコット氏は、「それぞれのキャラクターの感情の揺れ幅が、さらに高く、より深まったと思います。非常にベストな状態になっている」と満足気に語る。

 演出面では、初演の東京公演、続く名古屋公演を経て、微調整を重ねてきたという。「例えば2幕の冒頭でもグレイが登場し、観客と繋がることで、実はこの物語全体がグレイによって語られている物語なのだということを、いま一度お客様に伝える演出を盛り込みました。そのように作品自体も成長を続けています」。

 最後に大阪の観客に向けて、「我々を温かく迎えてくださり、心より感謝申し上げます。この作品は、劇団四季の方々がゼロから、日本発で創ったミュージカルです。お芝居の幕が下りたとき、何か心に触れるような作品であればうれしいです」と、作品への愛をにじませながら、力強くアピールした。大阪公演も幅広い観客層から、多くの感動の声が寄せられるに違いない。

 

劇団四季 オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』大阪公演

2025年12月7日(日)~2026年5月17日(日) 大阪四季劇場

※2026年4月1日(水)~5月16日(土)公演分は12月21日一般発売開始
(5月17日千秋楽公演は「四季の会」会員対象で、すでに販売終了)
※チケットの販売状況は劇団四季オフィシャルウェブサイトで確認を。

原作:藤田和日郎「黒博物館 ゴーストアンドレディ」(講談社「モーニング」)
演出:スコット・シュワルツ
脚本・歌詞:高橋知伽江
作曲・編曲:富貴晴美
音楽監督:鎭守めぐみ
振付:チェイス・ブロック
イリュージョン:クリス・フィッシャー
美術:松井るみ
衣裳:レッラ・ディアッツ

SHIKI ON LINE TICKET  http://489444.com

 

 

 

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