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Stage INTERVIEW

未知の蒸気機関車に乗って、岡山天音と共に劇場という空間で旅をしよう!『TRAIN TRAIN TRAIN』

目的地も地図もない未知の蒸気機関車に、俳優やダンサー、ミュージシャン、手話表現者たちがぎゅっと詰まっている。岡山天音が出演する『TRAIN TRAIN TRAIN』は、流動的な詩と異なる身体表現が混ざり合う、予測不能の舞台。ふらっと乗れば、あなたも思わぬ世界へ連れて行かれるにちがいない――。(取材・文/小柳照久、撮影/増田慶、ヘアメイク/茂木美鈴、スタイリスト/岡村春輝)

「なんだこれは!?」から始まった旅

初めて『TRAIN TRAIN TRAIN』という企画を聞いたとき、正直「なんだこれは!?」と思いました。台本はなく、最初に渡されたのは企画書のようなものだけ。森山開次さん(以下開次さん)からお話を伺ったときも、まず「絵を描いている」という話をされていて、そこに個性豊かな乗客たちが描かれていたんです。まだ抽象的なイメージの段階でしたが、そこにどこか漏れ出てくるような輝きを感じて、「この未知数の場所に踏み入ってみたい」と思ったのを覚えています。
普段、作品づくりは、まずコンセプトやテーマがあり、それをどう表現していくか、という順序で行われます。でも今回は、最初の“表現”が「絵」だった。目的地も地図もない蒸気機関車に乗り込むような感覚――そんな出発点は初めてでした。

台本のない稽古場で見つける「旅の形」

稽古が始まって1週間がたった今、現場は日々変化しています(※取材時)。いわゆる台本という形のものはなく、流れだけが並んだ構成表のようなものがあるだけ。その中身も、開次さんのイメージを言葉にしているもので、最初は読んでもなにがなんだかまったくわからなかった。形が先にあってそこを目指すのではなく、旅をしながらどこかに行き着こうとしている。どこに着くかは誰にもわからない。そんな創作です。
僕が演じるのは「レン」という詩人の役です。セリフではなく詩を語る。詩のテキストを書いている三浦直之さんが稽古場に来られて、僕らの動きや空気を見ながらその場で詩を書き換えることもあります。ある日、ポジティブな言葉を並べた詩があったのですが、「今回はネガティブな影の方にしてみよう」と、その場で180度変わったこともありました。そんなふうに、すべてが即興的で流動的にできていく。稽古が始まったばかりで、今はまだ完成形は全く見えません。それでも、この旅を進めるのが楽しいんです。

異なる表現がぶつかり、混ざり合う現場

最初の顔合わせも印象的でした。狭い稽古場にみんなが集まって、「プレ稽古」と呼ばれる模擬稽古をやったのですが、一人ひとりが放っているエネルギーの輝きがものすごく強かった。普段の芝居の現場とは明らかに違う。しかも集まったメンバーが、俳優だけでなくダンサーや音楽家など、まったく異なるバックボーンを持つ人たちばかり。「この人たちと一つの舞台を作り上げるのか」とただただ驚きました。
レンというキャラクターについては、幻なのか、現実に存在しているのかさえわからない。どこから来てどこへ行くのかも定かではない。ただ、旅をしながら、出会いと別れを繰り返していく。その過程で自分の内的なものと出会い直していく存在だと思っています。トラウマを抱えているようにも見えるけれど、それも明確には設定されていない。開次さんはあえて限定しないんです。おそらく、最後まで走り抜けても、答えが出ないまま終わるかもしれない。それでもいい、という感覚があります。

森山開次という「柔らかい演出家」

開次さんは、とても柔らかい人です。演出家として威張ることがまったくなくて、しかも自らも出演するプレイヤーなので、僕らと同じ目線でいてくれます。その「目線の近さ」がとても心地いい。演出家でありながら、同時に並走しているような感覚があります。
共演者のみなさんとのやり取りも、刺激に満ちています。今日の稽古でも手話を使う演者さんの表現から、自分自身の演じ方のインスピレーションを得ました。例えば「夜」という言葉を詩の中で何度も繰り返す場面があるんですが、その方は同じ「夜」でも、体の向きや視線の高さで印象を差別化させていたんです。音ではなく体の状態で詩を表現する。その学びは、レンという役の表現にも直接つながっています。
正直、今も戸惑っています。難しいという感覚さえ、まだよくわからない。稽古場では日々試行錯誤の連続です。音がなくても成り立つシーンがあったり、サインミュージック(手話音楽)が導入されたり、これまでの「芝居」とはまったく違う。オリジナル作品だからこそ、行き先が誰にもわからないんです。まるでレン自身が乗る蒸気機関車のように、僕自身もどこへ向かっているのかを知らない状態で旅しています。

舞台に“命”が増える瞬間を想像して

劇場に入ったときの変化も楽しみです。セットは大きく動き、蒸気機関車を表す場面もあれば、抽象的空間もある。稽古場とは“命の数”が違う。お客さんという命が加わることで空気が圧され、見えない押し合いが生まれる。それこそが舞台の醍醐味です。
僕が今、いちばんワクワクしているのは、異なる分野の人たちとのコラボレーションです。俳優、ダンサー、手話表現者、音楽家――それぞれ全く違う筋肉を持った人たちが集まって、一つの作品を立ち上げようとしている。普段の自分にはない表現に触れることで、自分の世界がほどけていくのを感じています。『TRAIN TRAIN TRAIN』は、まさに“混ざり合うこと”そのものをテーマにしたような現場です。
観客のみなさんには、ぜひ気負わずに劇場に来てほしいですね。ふらっと乗った蒸気機関車が、思いもよらない不思議な世界へ連れて行ってくれる――そんな体験になるはずです。手話や字幕も、単なるサポートではなく表現の一部。どんな人でも、楽しみながら新しい視点や美しさを感じられる舞台です。

芸術は「生命を維持するもの」

芸術とは、僕にとって“生命を維持するために必要なもの”です。三日間、食べずに過ごしたことはありますが、三日間、芸術を抜いて生きることはできない。世間の常識に沿って生きるのが難しい自分にとって、芸術は呼吸をする術です。世間では非常識とされているものもあるかもしれませんが、その自由で大きな懐こそが僕を支え、生きる力になっています。
この舞台も、誰かにとっての“呼吸を助けるもの”になるかもしれません。初日を迎えるまで、僕たちも、未知の蒸気機関車に乗り、どこへ向かうかわからない――ただ、走り続ける旅が確かに始まっています。劇場でその旅を一緒に体験できる日が待ち遠しいです。

 

『TRAIN TRAIN TRAIN』

2025年11月26日(水)~30日(日)
東京芸術劇場 プレイハウス

振付・演出:森山開次 
音楽:蓮沼執太 
テキスト:三浦直之(ロロ) 

アクセシビリティディレクター:栗栖良依 
スペシャル・アンバサダー:ウォーリー木下 

出演:和合由依 岡山天音 坂本美雨 KAZUKI はるな愛 森山開次 
/大前光市/浅沼圭 岡部莉奈 岡山ゆづか 小川香織 
小川莉伯 梶田留以 梶本瑞希 篠塚俊介 Jane 田中結夏 水島晃太郎 南帆乃佳

演奏:蓮沼執太 イトケン 三浦千明 宮坂遼太郎 

公式WEBサイト:https://www.train-train-train.com/

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