尾上右近にとって、『春興鏡獅子』は特別な意味を持つ作品です。3歳の頃、曾祖父である六世尾上菊五郎によるこの演目に魅了され、「いつか歌舞伎座で鏡獅子を踊れる役者になる」という夢を抱き続けてきました。その後、自主公演「研の會」で初めてこの作品に挑戦してから10年。ついに歌舞伎座という大舞台でその夢を叶える時が訪れたのです。今回の挑戦について、右近は「プレッシャーよりもワクワクしています」と語っています。また、「『鏡獅子』はゴールではなく、ここから追求していくもの」と話し、この作品を一生の当たり役にしたいという強い思いも明かしています。
右近は今回の挑戦について、「鏡獅子は私にとって生きる意味です。この作品への憧れが私を支え続けてきました」と語っています。また、「市川家のお家芸であるこの作品を私が踊ることをお許しくださった團十郎のお兄さま、そして夢を持つ権利を与えてくださった師匠の菊五郎のおじさまへの感謝と敬意を胸に、全身全霊で臨みます」と述べ、ただ伝統を守るだけでなく、「目の前のお客さんに楽しんでいただけること」を重視している姿勢も印象的です。
『春興鏡獅子』では、一人の俳優が異なる性質を持つ二役を演じ分ける技術が試されます。右近はこれまで歌舞伎以外にも幅広い分野で活躍しており、その経験から得た表現力や身体能力がこの難役にどう活かされるか注目されています。
また、この演目には胡蝶の精たちによる可愛らしい踊りも登場し、華やかな舞台に彩りを添えます。優美さと豪快さが融合したこの作品は、歌舞伎初心者にも楽しみやすい内容と言えるでしょう。
尾上右近が挑む『春興鏡獅子』は、歌舞伎座「四月大歌舞伎」の中でも特に注目される演目です。彼自身の人生と深く結びついたこの作品は、多くの観客に感動を与えることでしょう。松竹創業130周年という節目にもふさわしい華やかな公演となること間違いありません。この機会にぜひ足を運び、日本伝統芸能の神髄をご堪能ください。
『春興鏡獅子』とは?
『春興鏡獅子』は、明治26年(1893年)に九世市川團十郎が初演して以来、六世尾上菊五郎によって継承され、現在まで伝えられてきた名作です。その物語は江戸城大奥を舞台に、正月六日の「御鏡餅曳き」の余興として、小姓弥生が踊りを披露する場面から始まります。弥生が恥じらいながらも踊り始めると、祭壇に飾られていた獅子頭に魂が宿り、弥生を引きずって姿を消します。そして現れるのが獅子の精。勇壮な舞いで牡丹の花に戯れる姿が観客を魅了します。
この演目では、弥生の優美な所作と獅子の精の豪快な動きという対照的な踊りを堪能できる点が最大の魅力です。弥生役では指先まで神経を通わせた繊細な動きが求められ、一方で獅子の精では長い毛を振り乱しながら力強く舞う姿が印象的です。。
歌舞伎座 『四月大歌舞伎』
2025 年 4 月 3 日~ 25 日 歌舞伎座
出演:松本白鸚 片岡仁左衛門 中村魁春 中村歌六
中村雀右衛門 中村又五郎 中村鴈治郎 中村芝翫
坂東彌十郎 片岡孝太郎 松本幸四郎 尾上松緑
市川中車 坂東亀蔵 尾上右近 市川染五郎 他
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/930