大切な繋がりを失い、新たな繋がりを見つける――対照的な兄弟
――spiさんは高校生の弟の進学費用のために強盗殺人を犯してしまい、15年間服役することになる兄の武島剛志役。村井さんは「強盗殺人犯の弟」という肩書によって、恋愛や就職などの夢を奪われ、苦しんでいる弟の武島直貴役を演じられます。それぞれの役の大事にしているところを教えてください。
spi:剛志は無駄なことを付け加えず、俳優としての欲も我慢して、いかにシンプルにやりきるかが勝負だと思っています。彼は服役してある意味、時が止まっているなかで、失って初めて気づくものがある。そのシンプルな部分にいかに集中するかが勝負です。失うものとは、他者との繋がりですね。
村井:直貴は全然完璧な人間じゃなくて、社会に出るのもままならないぐらいのときに、兄が加害者になって。
spi:まだ高3だもんな。
村井:そう。だから心の中も未熟な部分がたくさんあるのに、一人で生きていかなきゃいけなくなる。兄の服役で周りの目が変わり、浮き沈みがとても激しくなるのだけど、なんとか兄弟としての家族関係を保とうとします。でも後半になると彼に新しい家族ができて、そこで新たな繋がりを得る。絶望と希望が混在しているのをすごく感じます。
3年前はがむしゃらに、心が落ち込んでいる状態を表現していたのが、今回は子どもも実際に登場しますし、新しい家族ができるという部分での台本の見え方が変わりました。だから、家族の繋がりを重点に置いて演じたいです。
spi:良大は去年、結婚したしね。
村井:そう。だから夫婦の絆が感じられるシーンでの、自分自身の見え方も驚くぐらい変わりました。妻の役との接し方も。
spi:確かに変わったね。
村井:2022年のときには気づかなかったことがたくさんあります。支え合って生きていくことの大切さを純粋に教えてくれて、新しい未来や希望を強く打ち出す作品に昇華したのでは、と思います。
――「手紙」というタイトルですが、今は手紙を書くこと自体減っていますよね。そんななかで、この作品を通してどんなことを伝えたいですか?
spi:ラストシーンで、希望と絶望をそれぞれの役が担うことになるのかなと思うのだけど……。
村井:見る人によっては、もしかしたらね。
spi:だからといって、家族を持って生きることが正解なのかというと、そうではない気がしていて。やっぱり一人で懸命に生きている人も世の中にはたくさんいて、そういう人たちに「家族が正義だ」とは提示したくはないなと、ちょっと思うんですよ。
村井:うんうん。
spi:一人で生きるのも正解だ、というところを伝えられたらと思います。
――村井さんはいかがですか?
村井:「手紙」というタイトルですが、やっぱり手書きのものは温もりを感じるし、書いてくれた人の表情まで見える気がします。芸能界に入って初めて仕事に向かう日、朝4時起きで早かったのですが、リビングに小さな紙が置かれていて、父が「頑張れ」みたいな……。
spi:置き手紙!
村井:そう、書いてくれてたんですよ。酔っ払って書いたような汚い字だったのですが、それがすごく嬉しくて、今でも取ってあります。
spi:へー!
村井:やっぱり手書きのものは、宝物になり得るから不思議ですよね。体温がそこに宿るというか。この舞台を観た方が、誰かに手紙を書きたいなと思ってくださったら嬉しいですね。
――最後に改めてメッセージをお願いします。
村井:今回、念願叶って大阪でも公演をやらせていただけるので嬉しいです。この作品は、観劇した友達の感想が短く「すごかった」とか、あっけに取られるぐらい迫力があるようで、ダイレクトに伝わるミュージカルだと思います。問題提起もあり、重い内容ではあるけれど、大事なテーマが散りばめられているので、ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。
spi:この『手紙』を観る前と後では、人生が170度ぐらい変わってしまいます。自分の知らない世界がこんなにたくさんあったんだと気づかされるし、こんなに観劇後、何日間も感想を語り合いたくなるミュージカルはないです。だからこそ、これだけ再演を重ねているので、「観に行こうかな」と悩む前に、ぜひチケットを予約してください!
ミュージカル『手紙』2025
東京公演/2025年3月7日(金)~3月23日(日) 東京建物 Brillia HALL
大阪公演/2025年3月29日(土)~3月31日(月) SkyシアターMBS
岡山公演/2025年4月5日(土)~4月6日(日) 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場
原作:東野圭吾「手紙」(文春文庫刊)
脚本・作詞:高橋知伽江
作曲・音楽監督・作詞:深沢桂子
演出:藤田俊太郎
出演:村井良大 spi 優河
鈴木悠仁 青木滉平 稲葉通陽 青野紗穂
染谷洸太 遠藤瑠美子 五十嵐可絵 川口竜也
公式HP https://musical-tegami.srptokyo.com/
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