総合エンタメ・マガジン[エンタプレス]

「“自分のため”というのは限界があると思っているからこそ――」

――演じられる助六役についてもお聞かせください。

ものすごく明るく、人に対して愛情深い、愛おしいキャラクターです。「俺は俺のやり方で突き進んでいく」と前向きに走り続け、落語は時代とともに変えていくべきだと思っている。もちろん落語の根本は変わらないけれど、新しいことをどんどんやって、お客さんに喜んでもらいたいと言っているのですが、そういう芸への向き合い方は自分とも重なり、すごく共感できます。

――助六と同期入門の菊比古(八雲)は古川雄大さん、芸者・みよ吉は明日海りおさんが演じられます。

『昭和元禄――』を舞台化するとなったとき、八雲はミュージカル界では雄大しか浮かばなかったぐらいぴったりです。品があり、しなやかで、でもどこか陰を感じさせる色気もあって。ドラマでは岡田将生くんが演じていたのですが、岡田くんとはまた違う、雄大にしかできない八雲がすでに見え始めていて、「間違いないな」と思っています。

明日海さんのみよ吉も今までの明日海さんにないような“ザ・色気”なところがあり、僕ら二人が彼女に惹かれ、取り合うという役柄なのですが、そういう魅力的な女性を演じてくださっていて、新しい明日海りおさんを見ていただけると思います。

――皆さんのお名前が並んだとき、「3人のトート(『エリザベート』)が揃った」とも思いました。

うんうん、3人ともトートですよね(笑)。そして小池先生なので、ちょっとトートを連想するような瞬間もありますよ! 演目の中に「死神」という落語があり、これがひとつテーマになってくるので、ミュージカルファンにはぜひ、「これ、トートのこと言ってるんじゃないの!?」みたいな瞬間を探していただきたいです。

――それは楽しみです! また、八雲は助六の芸に嫉妬し、それが彼のバネになっていくような深い関係性があると思うのですが、芸に携わられる山崎さんご自身、どのように感じますか?

僕もミュージカルの仲間たちがいて、比べられることもあるけど、だからと言ってライバルとはまた違うものを感じます。何か同じものを背負い、同じ苦しみ、孤独を知っている者同士の繋がりがある気がします。例えば帝国劇場の真ん中に立った人にしか分からないプレッシャーや不安、いろいろなものがある。雄大も明日海さんもそうだし、それらを経験した人同士で感じ合える、言葉にできない関係性があります。ミュージカルも落語も、ゴールもなければ答えもない。そこに挑み、深いところで繋がっている感覚というのはすごく理解できます。

――今後日本のミュージカルは、どのように発展していけばいいなと思われますか?

海外の物語や海外の人物を演じることも、もちろん続けていきますが、日本人の自分たちだからこそできる表現があるはず。例えばブロードウェイ・ミュージカルは「イエスかノーか」とはっきりしていて、「こんなに辛い」や「うれしい!」「幸せだ!」「愛してる!」から曲が導入されるけれど、そうではない日本人ならではの繊細さ、哀愁、染み入るようなフレーズなどを和のミュージカルから生み出していきたいです。相手のことを思いやる気持ち、本当のことを伝えられない歯がゆさ、秘めた想い。日本人ならではのそういう美しさ、言い換えれば“隙間”をお客様に想像してもらえることを信じて、つくっていけたらなと思います。

――山崎さんは今年1月で39歳になられましたが、これからもこのお仕事に一生を捧げたいというような想いがあるのでしょうか。

それはちょっと分からないですね。僕は大きな感覚として明日があるとは思っていなくて、今この瞬間どう生きるか、という日々なんですよ。もちろん大きな夢、こうあったらいいな、とかはあるけれど、それ以上に目の前のことに、どれだけの想いを乗せられるかでしか、人生はないと思っています。だいぶ先のお仕事まで有難いことに決まっているけれど、それよりも、目の前のことにどれだけの覚悟をもって挑めるか、そこですね。

――そのように思われるきっかけが何かあったのか教えてください。

これは17歳ぐらいからの不思議な感覚なのですが、おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に住み、介護をしなきゃいけない時期があって、そのときに命というものをすごく考えたし、命がずっとある保証はないと感じました。それで、「今日が最後だと思ったら、どう生きるか」というのをテーマにしようと。ミュージカルをやっていてもそう。今日の自分、今日のお客様と何をつくれるか、という連続です。コロナ禍のときは『エリザベート』公演が中止になり、『モーツァルト!』も途中で終わってしまったりしたので、「悔いなく自分のすべてを出し切れたか」ということをひとつテーマにしています。

――お子さんにも伝わればいいな、と思っていることはありますか?

やっぱり僕は、“自分のため”というのは限界があると思っていて。自分にはたぶん一生満足できないし、納得もできないけど、誰かのためなら……。子どもたちには、人のために一生懸命になれる人になってほしいといつも思っています。年齢や立場など関係なく、誰に対しても誠実に向き合えて、一生懸命になれる人。それを言葉というより、自分の姿勢で伝えていけたらと思っています。

――素敵なお話をありがとうございます。最後に『昭和元禄落語心中』について、ぜひ読者にメッセージをお願いします。

たぶん皆さん、どんなミュージカルになるんだろうといろいろ想像し、楽しみに待ってくださっていると思うので、その期待を裏切るような、皆さんの想像を超えるようなものをお届けできるように、とにかく初日まで全力で向き合っていきます。ぜひ劇場へお越しください。

©雲田はるこ/講談社

ミュージカル『昭和元禄落語心中』

東京公演/2025年2月28日(金)~3月22日(土) 東急シアターオーブ
大阪公演/2025年3月29日(土)~4月7日(月) フェスティバルホール
福岡公演/2025 年4月14日(月)~4月23日(水) 福岡市民ホール・大ホール

原作:雲田はるこ「昭和元禄落語心中」(講談社「BE・LOVE」)
脚本・演出:小池修一郎(宝塚歌劇団)
出演:山崎育三郎 明日海りお 古川雄大
黒羽麻璃央 水谷果穂 金井勇太 中村梅雀 ほか

公式HP:https://rakugoshinju-musical.jp/

 

 

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