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Stage INTERVIEW

絢爛豪華 祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』演出家・藤田俊太郎ロングインタビュー

高い評価を得た2020年上演の『天保十二年のシェイクスピア』が、新たなキャスティングで再演されている。シェイクスピアの全37作品を横糸に、江戸末期の人気講談「天保水滸伝」を縦糸に織り込んだ、井上ひさしさんの傑作戯曲。宮川彬良さんの趣向を凝らした音楽に乗せて、祝祭感と人間の業が入り混じるパワフルな演出を施す藤田俊太郎さんに、本作への深い思い、俳優から演出家へ転身したきっかけなど自身のルーツまで、色々と伺った。
(取材・文・撮影/小野寺亜紀)

『天保十二年のシェイクスピア』を再び演出する藤田俊太郎。「人はときに精神と感覚がジャンプする」

――2020年の初演は残念ながら観劇できなかったのですが、ブルーレイの映像で拝見し、画面越しでも舞台の素晴らしさが伝わってきました。

ありがとうございます。2020年は東京の3公演、大阪の全8公演を上演できなかったので、今回の再演はまず一番に、前回チケットを購入されたのに観劇できなかった皆様に、この作品をお届けしたいという強い思いがありました。辻萬長さんは初演の後にお亡くなりになり、当時のキャストが揃っているわけではないですが、やはり“2020年カンパニー”への敬意と感謝を胸に抱きながら、新たな気持ちで“2024年・2025年カンパニー”をつくっていきたいと思いました。

――再演ではどのようなプランをお考えですか?

初演とは僕自身も時代も変わり、台本の捉え方が変わってきています。この作品は「天保水滸伝」とシェイクスピア全作品を織り交ぜた壮大な傑作戯曲。カオスな混沌群像劇と見せかけて、実は「佐渡の三世次」の一代記だということが、初演から約5年の時間を経て明確になりました。今年『リア王の悲劇』で初めてシェイクスピア作品を演出したのですが、そこから『天保十二年――』に戻ったとき、「“シェイクスピア”は趣向のひとつに過ぎないのではないか」という思いが僕の中で湧きました。つまり、「井上ひさしさん作の江戸の時代劇」なのだと。

江戸末期、価値観が変わり、世の中が揺らぐ中で人々はどう懸命に生きるのか。侠客という裏社会が中心の物語ではあるけれど、百姓をルーツに持つ三世次が上の立場に立ったとき、彼は百姓を搾取します。つまりかつての下層が最下層を搾取するのです。

――そこが一番衝撃でした。

衝撃ですよね。僕がずっとこの座組に言っているのは、「人間の暗部を光でえぐりたい」ということ。登場人物たちは鮮烈に生きています。ここではない場所へ行きたいと、世界に抗っている。格差社会の怒りがあるけれど、時代の転換期だから「変わるはずだ」という思いがある。そういったこの戯曲がもつメッセージを、ものすごく鋭敏に感じましたし、時代が教えてくれました。なぜなら今、格差社会と搾取の構造、生きづらさが顕在化しているからです。時代の暗部が、皮肉にもこの作品に新たな光を与えてくれたのではないかと考えています。

――確かに2020年以降、さまざまな問題が社会で顕在化しましたね。

ただ、価値観がいい方に変わった面もあります。令和の時代は暗いだけではない、楽しい要素もあるんですよ。断絶ではなく人を受け入れることに自覚的になり、人と人との繋がりや愛を感じられるということも、コロナ禍以降、僕は強く思います。だからこそ、この作品は祝祭で始まり、祝祭で終わるわけです。ある種喜劇であり、喜び、大いに笑って楽しんでいただきたいです。

――この作品は井上ひさしさん独特のユーモアもあり、シェイクスピアの台詞や人物設定が絶妙に織り込まれているなど、本当に盛りだくさんです。

とても面白い作品ですし、お客様をさらっていくパワーがありますよね。神聖さ、潔い格好良さ、残酷さ。醜いものと美しいものが混在したような世界に誘います。この戯曲を井上ひさしさんは部分的に赤いインクで書いたと史実に残っていて、それぐらいの思いやパワーが宿っているのを感じます。物語の中で“ルーツ”というのがキーワードになるのですが、生まれた瞬間から死ぬまで、「枠組みから出ることができない」という価値観を押さえつけられた者に、本当の喜びはあるのだろうか……と、50年を経て作家の井上ひさしさんは問うているように思います。

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※〈辻萬長さんの「辻」の正式表記は一点しんにょうです〉

 

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